涼しい襟足

明け六つの鐘が鳴る音にすうっと目が開いた。

朝の冴えた空気を底から感じて、ますます目が冴える。
普段はあまり寝起きは良くないのだが、目が覚める時間が早いせいか、ゆらとの早起き対決はほぼ負けていない。

今日はすっと目覚めたせいか、なかなかしゃっきりした意識にごろり、と寝返りをうつ。
寝返って頬にかかる髪の短さに違和感を感じた。
長年付き合ってきた、もしゃもしゃの巻き毛は頬に少しかかる位で、うっとおしくなくなって清々していたのだが…。

なくなったらなくなったでなんだか寂しい感じもするんじゃのう。

切り捨てた髪のように自分の心も軽ろうなったじゃろか。
それとも切り捨てた髪も、やはりワシは勿体無いと思うちょるんじゃろうか。


ゴロンともう一度天井を見上げ、頭の下に手を敷いて考える。
天井を見据えるが、そこにはゆらの顔。


…大儀の為、皆の志を一つにする為と決意の断髪じゃったのに。

ワシはもう髪結いしてもろうたゆらの手を思い出しちゅうがか…。



思いを振り切るようにガバリと起き上がる。

キレイに折り畳まれた白いシャツに袖を通し、襟元の釦を苦戦しつつ留める。



襟を直した時に触れた自分の短い髪をもう一度さすって自嘲気味に笑んだ―。


【 終幕 】


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