恋人になるためのひと時・7
抗議しようと顔を上げると、目の前には大久保さんの唇のどアップで文句を言いかけていた私は押し黙ってしまった。そんな私に大久保さんが面白くなさそうに
「そんなに緊張しなくとも良い。詩乃ごときに欲情などせぬ。」
「…よ、欲情っ?!」
「…お前ごときには身体も反応せんと言っているのだ。」
「ごとき、ごときって失礼なっ!……それに反応って?…何のですか?」
「…ナ、ナニのだとっ?!……。い、いや何でもない…とにかく何もせんから、安心して寝ろ!判ったら黙って目を潰れ!」
なんかよく判らないけど、早口で怒られてしまった。観念した私は黙って寝る事にしたけど、流石に向き合って眠るのは無理だ。
大久保さんに背中を向けてなるべく、くっつかないように気をつけていたのに
「…何をもぞもぞと。あまり離れるな。隙間が空いて寒いではないか。」
そう言って、私のお腹に手を掛けるとグッと引き寄せ大久保さんの身体に密着してしまった!
「ふわぁ…!」
「頭を私の腕に乗せろ。秋山の夜は冷える。布団を半分占領するのだ。せめて温石の代わりをしろ。」
確かに、離れて眠ろうと試みてみたけど、そのせいで掛け布団と敷布団の間に出来る隙間から、冷たい空気がスーッと入って来て寒かったのだ。背中には薄い寝間着を通して、大久保さんの体温が直に伝わって来る。
「…はい…お休みなさい」
返事をして大人しく大久保さんの温もりに包まれた。ドキドキと胸が激しく騒いでいたけど、暖かさと安心感にいつしか眠りの世界へ誘われて行った……―。
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