恋人になるためのひと時・4

今夜は、この辺りの庄屋さんのお家に泊めて貰う事になっていた。凄く大きな家で部屋がいくつもあって、オマケに離れまである。夜の宴会のご飯も猪だとか鹿だとかが並び、随分と豪勢な食卓だった。
宴会の間、私はやはりボードインさんの隣で話したりお酌したりしていた。チラチラと大久保さんを時々見るけど、隣にはお靜さんがいてお酌をしていた。

ふと、ボードインさんを見ると写真機を持ち上げていて、昼間にすっかり馴染んだ藩士さん達は喜んでポーズをとったりして盛り上がっていた。そんな中、

「嫌っ!怖いですっ!」

女の人の鋭い声がして目を向けると、お靜さんが大久保さんの肩に顔を寄せてしがみついていた。
それを見て、お父さんの荒井さんは

「全くお靜は、怖がりで仕様が無いな。大久保殿、申し訳ござらん。写真はただのからくりだと言って聴かせていたのですが…。」

「あぁ、いや。荒井殿、心の細やかな女人には良くある事。お気になさらずに。」

大久保さんは肩に縋り付くお靜さんの背中を宥める様にぽんぽんと叩いていた。…ぽんぽん…ぽんぽん…

「これは、これは。宜しければ大久保様、お嬢様をお部屋へ連れて行って差し上げては…。すっかり頼りになさっておられる様子。」

庄屋さんの提案に荒井さんからも、是非にと言われれば、大久保さんも断る理由も無く二人連れ立って広間を出て行った。部屋を出る間際、目が合ったと思ったけど心はちっとも跳ねてはくれなかった…。

「シノ…?…Fufu… His eyes are honest.…Feel relieved, Believe him.」(ふふ…彼の視線は正直ですね…安心なさい、彼を信じてごらん)

ボードインさんが何か言葉を囁いてくれたけど、私の耳には余り届かなかった。直ぐに大久保さんは広間に戻って来たけど今度は荒井さんと話し込んでいて、結局一言も話せないうちに遅い時間なり、私は一足先に宴会から退がる事にした。庄屋さん宅のお手伝いの人に離れの部屋へ案内された。すぐに眠る気になれず寝間着に着替えてから、廊下を曲がった先にある縁側に出て一人月をぼーっと眺めていた。

何だか淋しいな…。やっぱり何か期待したり、下心があると上手く行かないものだなぁ。はぁあ。結構長い時間此処に居たんだ。そろそろ寒くなって来ちゃった。部屋へ入ろうと立ち上がった時、中庭の向かい側の廊下をお靜さんが通って行った。こんな遅い時間にどうしたんだろう?

何気なく見ていたら、こちらの離れと対局にある明かりの灯いている部屋の前に立って声をかけているみたい…。ちょっとしてから開いた襖から現れたのは大久保さんだった。
二、三言交わした後…お靜さんは大久保さんの胸にそっと寄りかかると部屋の中へ入り襖は静かに閉じられた……―。





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