恋人になるためのひと時・1


「…この辺りは、足場が悪い。私の手を貸そう。しっかり掴めよ。」

「…/////…はい…。」

大久保は娘を優しく見遣ると甘く微笑み、娘は恥じらいつつも大久保の優しさに胸が高鳴るのであった…―。
なんて…純文学作品の一つも書けそうな光景だ……
…ずるっ!っへ?!

「詩乃さぁ!足元!」
「Hey!シノ!Look!」

へっ?!…うわっ、ぐらっ!ずりんっ!!

「…ん―…っ!痛っ…」

「シノ!!Alles klar?!…Everything ok?」(大丈夫か!?)

「…えっ?…あっ…平気…オーケー!えっと…be indefferent to…です。えへへ、こけちゃった…。」

ボードインさんと半次郎さんが助け起こしてくれている少し先で、二、三歩戻りかけてくれていた大久保さんに笑いかけるけど、眉間にシワを寄せて睨むと娘さんの手を取り、また先を歩いて行ってしまった。

「………。」

「シノ?」
「詩乃さぁ…しっかい行きもっそ…。」

「あっ…はい!…さ、行きましょう!Let's go!」

明るく声を張り上げると、大久保さんがチラリと振り向いた気がした。


薩摩藩邸を朝早く出て四時間位経ったのかな。私は今、大久保さんからの依頼でオランダ人医師のボードインさんが京都旅行に来たので接待のお手伝いに同行しているのだ。何でも急に知らせが来たらしく、人手が足りないとか…私でも役に立つとか…大久保さんがいくつか理由を言い、一緒に大原へ一泊の予定で紅葉狩りへ行くよう頼まれたのだ。

…龍馬さんも武市さんも外国人が一緒で一泊で接待という部分を心配してたけど、だけど…私が行く事を決めたのは、大久保さんの役に立てると思ったから…。…ちょっとでも大久保さんの近くにいたいなって…。

出会いはあんなに最悪で大っ嫌いだったのに、本気か冗談か判らない言葉と眼差し…時に触れる包み込む様な優しさに、いつの間にか…寺田屋の皆との話しの中に名前が出るだけで、トクンと胸が鳴ってしまう…姿が見れたら一日中ふわふわした気持ちになってしまう人になってた。まぁ、私なんて大久保さんのストライクゾーンの外も外、大外なのは判ってるけど……。片想いだけなら…良いよね?…この旅でまた知らない一面を覗けたら嬉しいんだけどなぁ……なんて考えながら来てみたけど……

実際来てみたらそんな甘い予想は砕かれ、案外大人数で大久保さんとボードインさんの他に長崎奉行所の役人の荒井さん、通訳の伊東さん、半次郎さん、それに護衛の藩士さんが五人。それと、あと…荒井さんの娘さんのお靜さん。一、二歳年上らしい大人しそうな人で、今回江戸から長崎へ転勤になっているお父さんの元へ一緒に行く為に同行しているらしい。仲良くおしゃべりできると良いなぁと思ったんだけど、どうも避けられてるというか…嫌われている気がする。…私みたいにカチャカチャと煩いのは嫌いなのかも…。




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