novel

見渡すかぎり続く白い雪の上。
あるのは赤い花をたくさんつけた低い椿の木々ばかり。
そんな中ばさばさと羽音を響かせ白鳥が一羽雪の上に舞い降りました。
その白鳥は風が吹いた次の瞬間美しい青年になりました。

ふわふわと温かそうな羽のコートで身を包み、椿の木に近づくと
輝く緑の葉をひとなでして優しく赤い花をつまみました。

「ひさしぶりだねえ」

雪の上に美しい青年の声が響きましたが返事はありませんでした。
そして、青年も気にせず次の言葉を口にしました。

「目をあげてしまったんだね」

「ねえ、バッキー。そんなにあの人間が気にいったのかい?」

「人の姿を保てなくなってまで」

「僕は自由に飛べるからかな、君がとても馬鹿に見える」

「ごめん、ごめん、元から君は馬鹿だったね。」


どの言葉にも返事はありません。


「確かに外は刺激に溢れて面白いと思うけれど
外はとても広いんだ、美しくて、汚くて、滑稽で、悲しい場所だ。
君は知らなくてもすんだのにわざわざ見に行くなんて馬鹿と言うしかないよ。」

「そんな所に行かなくても雪に映える君の姿はこんなに美しいのに。」

「こんなに傷ついて外に出かけても、君は話す事もできない」

「それに」


青年は口をつむりました。
つまらなそうな顔をしてため息をはくと、ふてくされたように話しだしました。


「ずるいじゃないか。」

「君は僕の声が聞こえるのに、僕は君の声が聞こえない。」

「また君が話せるようになった時にでも会いに来る事にするよ。」

そういうと青年はここに来た時と同じ鳥の姿になり、
少しずつ少しずつ空に上がって行きました。
外へと向かいながら口にしなかった事を思いました。

(それに人間は僕らの半分の半分も生きられないじゃないか)
(そんなものに恋した君は馬鹿だよ。)



白い白い雪の上、たくさんの赤い花と緑の葉が風に揺られていました。
そこには彼以外だれもいません、しかし彼はもう寂しくありませんでした。




恋は盲目(椿・おまけ話)


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