novel
※もし9巻椿と15巻赤崎が出会っていたら?というねつ造話です。




弾むボールを足の甲で受け止め、また蹴り上げる。
ボールは頭の高さまで上がると勢いを失い足元へと落ちて、またそれを右足で蹴り上げた。
なんどか繰り返してボールの感触を確かめた後
今度は大きく背を空に伸ばした木に向かって蹴りだす。
まっすぐ足元に帰って来るのは稀で、たいていはあっちこっち遠く届かない所にパスをかえしてくる、
それに追いついて何回パスが続くかに挑戦するのが最近の俺の日課だった。

「赤崎、たしかにお前はチームで一番上手い」

何も考えずにボールを追いかけたいのに、ふと過ぎるコーチに言われた一言のせいでイライラして集中できない。

「だけど、サッカーは11人でするスポーツだ。お前一人が頑張っても勝てはしないし
チームは強くなれない。もっと皆の事を信じられないようならレギュラーから外れてもらうぞ。」


あんな下手な奴らをどう信じればいい?
俺はあいつらみたいに遊びでサッカーをしてるわけじゃない!
ゆくゆくはプロになって活躍するんだ。
もっと、もっと上手くなりたい、まわりがどんな奴でも勝てるくらい!

苛立ちに任せたパスは木にあたり、フェンスを乗り越えてしまった。
くそ、めんどくさい。
かいた汗を乱暴にタオルで拭い取ってフェンスを見れば。
じいっとこちらをみる子供と目が合った。
そこいら辺に居そうな何も変わらない男だ、黒くて短いつんつん頭でリュックサックを背負い、手にサッカーボールを持っている。

拾ってくれたのか。

「サンキュ、それ俺のだ」
そう言うとそいつは驚いて口を開けた、けれど、何か言おうとして
「えーと」だとか「その」とか、繰り返すばかりだ。

そのじれったさにイライラして「何?」と聞けば、あわてて余計に話さなくなった。
なんだよ、言いたい事あれば言えばいいじゃねえか。
もういいや、これ以上イライラする前にさっさと練習に戻りたい。

「くれよ、ボール」
「あ、・・・うん、いくよ!」

そう言って、そいつはボールを蹴った。
2メートル位あるフェンスをやすやすと越え、ちょうど俺の足元にパスが届く。
上手いな、ふと思った。どうせ偶然なんだろうけど。

また、ボールを蹴って挑戦に戻ろうとした、が。
背中の視線が凄く気になって集中できない。

「なに、まだ何か用なの?」
「え、っと、その・・・!上手だね、サッカー!」

予想外の返事に、一瞬思考が止まった。
もう一度そいつを見れば真剣な顔でこっちを見ていて愛想でも、からかいでも無く
本気でそう思ったから言ったんだろうって事がありありと伝わってきた。
せりあがる嬉しいような、恥ずかしいような、苛立ちのような、強烈な感情に見ていられなくなって目を逸らす。

なんて恥ずかしい奴だ!

「お前も、好きなの? サッカー。」
ぶっきらぼうな口のきき方になってしまったが、こいつが悪いんだ、たぶん!

「うん、好き!」
初めてそいつがはっきり答えた。
その別人のような笑顔にどきりと心臓が弾んで、ああ、こいついいなとふと思う。
「いっしょにする?」
考えるより先に、言葉が出ていた。



そいつとのサッカーは思った以上にやりがいがあった。
上手さで言えば、こいつより上手い奴はチームメイトの中に何人もいる。
けど、何回抜いても直ぐに食らいついてくるあたり、スピードがあるんだと思う。
俺だって速さには自信があるけど、もしかしたらこいつ、俺以上に速いかもしれない。
一度ひっかけたフェイントに次は引っかからないあたり頭も悪くない。

そして何より。

こいつとのサッカーは凄く楽しかった。
こんな気持ちはいつぶりだろう?
初めてサッカーボールを蹴った時みたいに胸が熱くなって、ただ夢中になってボールを追いかけた。
そいつも真剣にやってんのに笑ってて、楽しんでることが凄く伝わって来た。


『赤崎、お前サッカーやってて楽しいの?』
以前、そう聞かれた事がある。
そいつが言うには、怖い顔でサッカーボール蹴ってる所を見ると
まるでサッカーを嫌ってんじゃないかと思ったらしい。
俺からしてみれば、遊びかそうじゃないかの違いだと思って深く考えなかった。
遊びだからヘラヘラ笑いながらでも出来るんだろうけど、俺はそうじゃない。
上手くなりたいから必至なんだ、そんな事出来る筈が無い。

だから楽しむとか考えた事も無かった。


『チームメイトを信じて協力しろ』
出来る筈がない。
戦術上仕方のない部分は協力するし、それでいいと思ってた。
俺が頑張ればいい、これまでも、これからも。
だけど、だけどこいつなら信じてみてもいいかもしれない。

「「あっ!」」

奪い合ったボールが高く宙を舞って、二人で追いかける。
ボールまでの距離はお互い大差ない。
肩がぶつかりあい、競り合いながら駆ける、あと数歩の差で俺が負けた。

「はーっ、お前、はっ、スピードあんなあ・・」
「はぁ、はっ、はぁ、君も、早いし、やっぱり、は、上手い・・」

思わず二人して座りこんだ、本当は動いた後直ぐに座るのは良くないんだけど
今日は特別だ、もう、歩く力も残って無い。
しばらく荒い息を整えるのに必死で、何も喋れなかったけど、
よこにこいつがいるだけで楽しかった。

「お前、どっかチーム、はいってんの?」
「ううん、入って無い。」

その返事に心の中でガッツポーズした
これだけできるなら余所のチームに入っていてもおかしくない。
だけどそれでは意味が無い、俺はこいつといっしょにサッカーがしたい。

「なら、ET・・・「見つけた、大介!!」」

言いかけた言葉は急に割り込んできた大声にかき消され、そいつが振りかえった。

「並松、先生・・。」
「自由時間は終わってんのに帰ってこないから心配したぞ、もう宿に戻らないと皆待ちくたびれてる」

宿?先生?
聞こえてくる会話にこいつがどこか遠い所から来た事が分かって
冷たく淀んだ気持ちがたちまち俺を包み込んだ。
俺、馬鹿みたいだ。なに一人で期待したんだろう?
あいつが先生と話しこんでるうちにボールを拾い、その場を離れた。

聞きたくなかった、別れの言葉を。
一人で盛り上がって夢見て、滑稽すぎる。
ずっといっしょにいれると思ってた。
・・・何も根拠なんて無かったのに。

目をつぶれば涙が出そうで、苦しかった。
やっと見つけた、そう思ったのに。
辛い、悲しい、寂しい。
溢れだす気持ちから逃げ出したくなって速足だった足が走り出した。
この胸の痛みは走った疲労からくるんだ、自分にそう言い聞かせて。






「どうかしましたか?」
「ん、急に昔の事思い出した。」

俺は今椿の部屋に来ていた。
寮だから自分の部屋と大差無い造りの筈だが私物があるだけで
まるで違う雰囲気する。
椿の部屋は物が少ない。

ふと床に置いてあった薄い本が目に入った。
いや、本では無い。アルバムのようだ。

「見ていいか?」
「はい、て、あっ! それ・・!」

つい考えるより先に返事してしまったのだろう、馬鹿だなあ。
にやっと頬が緩むのを自覚しながらもページを開いた。
だって許可は出たからな。

目を落とした写真は高校、中学、と今までの友人だろう奴らが笑顔で移っている。
やはりというか、意外と言うか、彼女のような女の写真が無い事に安心と愉悦を感じる。
ページを進めると、よりいっそう被写体が幼くなる。
その中、一枚の集合写真を見てピタリと指が止まる。
写真と記憶が重なり、込み上げてくる懐かしさと哀感に心の奥底が震えた気がする。

「椿、お前修学旅行ってどこ行った?」
「え、あ、いつのですか?」

写真を見られて焦る椿を無視しながら、小学校の時。とぶっきらぼうに答える。

「東京です、浅草とか・・・そういえばこの辺の散策でした。」

聞いておきながら、返事もなく写真をじっと見る赤崎をが気になって近づいた。
覗きこむようにして赤崎の顔を見ようとして
がしゃがしゃ髪をかきまぜる手に邪魔される。

「わ、わっ何するんですか!」
きっと睨みつけようとした椿が赤崎の顔を見て固まる。
見る見るうちに頬が赤くなって、戸惑うように目を泳がせている。


「大介、またお前に会えてよかった」
そう言う赤崎はふわっと、やさしい笑顔を浮かべていた。




再会


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