novel
※赤崎11歳、椿19歳な年齢操作在ります。




いらいらする。
代役なんて断れば良かった。


ユースの練習が終わり、ぎゃあぎゃあと周りが騒ぐ中赤崎は一人帰ろうとしていた。
その時に呼び止められ、ボールボーイの代役をしてくれないかと頼まれた。
間近でプロの試合が見られるなら、球拾いでもしていいと思って引き受けたのに・・。

サテライトの試合かよ。

しかもウチのチーム負けてるし。

攻撃されてるばっかりでまるで反撃の見込みもない様子にむかむかする。
情けない、しかし仕方ないとも思う。
だって今日の相手は東京Vだ、いくらサテライトといっても
それなりに良い選手がごろごろいるわけで、ETUとでは格が違いすぎる。
そこまで考えてため息が出た。
家から遠くなるけど東京Vのスクール通えばよかった、と思う。
いや、今からでも通いなおせば・・


『ピー!』


その時ホイッスルが鳴り選手の交代が宣言される。
ハァハァ息が切れた選手が特に特徴の無い選手とハイタッチを交わし引き下がった。
選手が変わったからって正直あんまり期待は持ってない。


格上相手に2点ビハインド、残り時間はロスタイム入れても30分強。
普通に考えて無理に決まってる。
この時は何と言えば母さんが許可するか、そんな事ばかり考えていた。


そうこの時は、だ。


まず最初に驚いた事は、そのスピードだった。
敵陣へ駆け上がり、体に触れる事すら許さず見方にパスを送る。
それも、ほぼ足元ぴったりに!
あのスピードでこんなにコントロールできるものなのか!と
熱くなる胸を押さえつけ、食い入るように試合にのめり込んでいった。

それに、よく走る。
先ほどまで相手のコート内に居たのに、神出鬼没に現れここぞというシュートチャンスを潰していく。

なんでこんな選手がサテライトなんかにいるんだ!

心臓がバクバク音をかきならしている、つまらない、退屈な試合だ、そう思っていたのに!
何だこれ!何だこれ!何だこれ!!

(凄ぇ面白い!!)

いけるかもしれない、この試合。まだまだこっからひっくり返る!
そう思えてしょうがなかった。

『ピッー!』

ラインを割ったボールを慌てて追いかける。
見惚れていた事が恥ずかしい。
追いついて振りかえるとあの選手が立っていた。
その事が分かった瞬間嬉しさがいっぱいになって目が合った瞬間鳥肌が立った。


獲物を求める野生の獣のような闘争心に体が焼かれたようだ。
怖い、とすら感じた自分が悔しくて何もなかったように仕事をこなした。
こんなの、ボールを拾うだけの簡単な作業だ!
でも、そんな作業でもこの試合に関わっていられる、その事が嬉しくて堪らなかった。
この時ほどETUのスクールに感謝した事は無い。




まるであの選手の勢いにつられたかのようにETU全体が輝きだし
みるみる試合はETUペースになった。
試合は2−2の引き分けで終わったけど、あと10分。
いや5分でも残り時間があれば結果は違ってただろう。

あんな凄い選手がウチにいたなんて!
いつか、あの人とサッカーしたい。
その日は溢れる興奮でいつまでたっても寝付けなかった。






・・・・・・あの人だったよな?


数日後、積極的にボールボーイを引き受ける事にした赤崎は感動の再会をした。
・・・・・はずだ。
風に跳ねる黒髪も、背負う番号もあの日のまま、なんだけど。


(なんであんなに下手くそなんだ!?)


パスをすれば見方とかみ合わず、ドリブルをすれば相手に潰される。
良い所も無く後半5分で交代させられてしまった。

次の試合も、その次の試合も、その次の次の試合も活躍どころか足をひっぱるばかりで
あのプレーはなんだったんだと叫びたい。
げんなりした心が期待するのもう止めたら、とつぶやく。

まぐれか何かだったんだろうか・・・?

溢れる疑問とわずかな期待にせかされてサテライトの練習場に足を運んだ。
どさりとカバンを足元に置くとフェンスの向こう側を覗きこむ。
じいっと、あの選手を窺うとDFに潰されていた。
・・・今日も調子は良くなさそうだ。

「君は椿のファンかい?」

突然話しかけられて心臓がはじけ飛ぶかと思った!
慌てて振り向くと見覚えあるおっさんがにこにこしている。
このおっさん、サテライトの監督だ!

「ねえ、椿っていうのあいつ?」
「ああ、そうだよ。」
「あいつ、なんなの?上手いのか下手なのか全然分かんない」

おっさんは少しわらって「私もそう思うよ」と話した。
なんだそれ。

「椿は、好不調の波が激しい選手でね。でも光り輝く何かを持ってる。」
「君も見ただろう?東京V戦でのあいつの輝きを。」

静かに赤崎は頷いた。
思い出すと今でもカッ!と心が熱くなる。
あの時のあいつは本当にかっこよかった。

「スピードもスタミナも才能も、サッカー選手の大切な物全てを持っているんだ、
この先技術も身につけて、あいつは凄い選手になると思うんだよ。
こんな所でくすぶらせるのは勿体ないくらいに!」

そう語るおっさんの目は凄く輝いていた。
隣で話してて分かる。
このおっさんも椿に魅せられた一人で俺と一緒なんだって。

「君も椿のファンなんだね」
俺がそう分かったみたいに、おっさんにも伝わってしまったようだ。

「さあね、これからのあいつ次第だよ。」
ふいっと顔をそらしてグラウンドを見た。
まだ俺は認めてやらないもん。



おっさんはにこにこしながらグラウンドに戻って行った。
だから、俺まだそいつのファンだって認めてないって!
いらん事吹き込むなよおっさん!
そう念じて、おれも家に戻る事にした。



あわててたからカバンのことなんてすっかり忘れて。
日が暮れてから気付くとか重症にも程がある・・・。


自分の情けなさに呆れながら来た道をたどれば思い出すのは椿の事だ。
見上げればもう空は黒々としていて、月が存在を主張している。
あの月は太陽が無ければ輝かないのだ。と理科の授業で先生は言った。
俺が椿の太陽になれたらいいのに。

・・・・・いやいやいや、待て俺今何考えた!?

湧きあがる気持ちに言葉を当てはめるのはとても危険な気がする。
なんだか最近椿に振り回されっぱなしじゃないか!くそ!
それなのにあいつは調子悪いし、なんだよ!あいつ。
実力あるんだったら、さっさとだせよ!これじゃ見限る事すらできねえじゃねえか!

ああ、もう何も考えたくない!走れ俺!!
ちかちか輝く星空の下を全力で駆け抜ける、
そうすれば心に張り付いた何かが剥がれるんじゃないかと思ったのだ。



「・・・着いた。」

はぁ、はぁっと荒い息を吐き出しながらあの時覗いたフェンスに近づく。
カバンは変わらずその場所に置いてあって、ほっとした。
なんとなくグラウンドに目をやれば、誰かがいて息を呑んだ。

誰だこんな時間に!

そっと様子を窺っているとその男に見覚えがある事に気づいた。
あいつだ、椿だ!
唯でさえ走ってきてしんどいのに
これ以上どきどきするなんて苦しくて死んでしまいそうだ。
一言文句でも言わないと気が済まなくて、俺はすっと息を吸った。

「何やってんの、あんた!」

声をかけられた椿はボールの下を蹴り上げ、ずいぶんと高くボールを飛ばした。
ゴールしそうにないよ、それ。

ばっと椿がこっちを振り向いて俺に気付いた。
不思議そうにこちらを見ると「君は?」と聞かれた。

「赤崎 遼、ここのスクール生だよ。忘れ物取りに来ただけ、で、あんたは?」
「椿 大介。ここの選手で自主練するのがなんか、日課になっててね。」
いたずらが見つかったかのように椿は笑った。

椿の笑顔を見るとじわっと胸が暖かくなる、きっとこいつはいい奴だ。

「ねえ、なんであんた上手かったり、下手だったりするの?」

あ、困った顔してる。落ち込んだっぽいぞ。
・・・情けないな、コイツ小学生に言われたい放題でいいのか?
とも、思うのだがなんだか今凄く俺楽しい。

椿は情けなくていいのだ。

「椿、俺絶対プロになる。それであんたの事輝かせてやるから!」
(だから、俺の横で笑っててほしい。)

椿は凄く驚いた顔して、ちょっと笑った。
できるもんか、って意味じゃない事が凄く嬉しい!

「楽しみにしてるよ 遼。」
「ああ!」


星空の下、ふたり手を繋いで帰った。
サッカーが大好きな事、今年からETUに移籍した事、上手く実力が出せないでいる事、
姉がいる事、いろんな話が聞けて嬉しかった。
手を繋いで歩くなんて子供みたいだ。と言えば、そう? 俺はよくこうやって歩いたよ。
と手を離さずに言い返されて、なにも言えなくなった。
繋いだ手が暖かくて、気持ちよかった。

「遼ってあの時ボ−ルボーイしてた子だよね」
「覚えてたの?」

なんだそれ、凄く嬉しい・・!
いつもなら照れて言えないのに、夜だからか暖かい手のぬくもりに硬い殻が溶けて自然に話せた。

「あん時の椿、怖いくらい凄くかっこよかった。」
「・・・・ありがとう。」
見上げれば首まで顔が赤かった、椿は照れ屋だ。
「また見せてよ、かっこいい所。そしたら椿さんって呼んだげる。」
「頑張るよ。」

椿と話していたら、あっという間にうちが見えてしまって
あれだけ早く帰りたかったのにもっとこうしていたいと思う。

「ねえ椿、また会いに行っていい?」
「いいよ」
その椿の笑顔が凄く優しくて、嬉しくて、椿に抱きついた。


「今度会う時色紙、絶対持ってくるから!サイン1号は俺以外に渡しちゃ駄目だよ!!」

そう言って別れた。

もっともっと練習するんだ、上手くなってそれで、
あいつから貰ったパスをゴールにたたき込んでやる!
プロ選手になるんだと、改めて胸に誓った。

早くあいつに追いつかないと。

「ただいまー」

たくさん話したからのどがカラカラだ。
お茶をとろうとして手を止め、ある事を思い出して・・


牛乳パックに手を伸ばした。



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pococoのゆうむさんのチビ崎×椿が可愛すぎて暴走したよ!
急いで許可とって私が書けばあら不思議、すべてに上から目線の可愛くないにも程がある赤崎の出来上がり★

・・・泣いてない、泣いてなんかいないんだってば!

更に怖い事はまだまだ続き書きそうなことである。
チビ崎恋を自覚する偏だとか、兄弟枠からの脱出とか、高校編とか。

だれか、私を止めて下さい。



少年、椿に出会う。


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