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 椿がうさぎになりました



*椿の身に何かが起こりました、性描写あります。
*人を選ぶ話なのでタイトルで嫌な予感がした人は読まない方がいいかもしれません。



椿が練習を休んだ。
風邪をひいたらしい。

「喉にはきてないみたいだったけど、椿君大丈夫かなあ。」

電話を受けた有里が暗い顔でつぶやいた。
心配そうに眉を下げる有里に大丈夫だろと声を駆けながら、頭では椿の顔が浮かぶ。

変だ。
椿が風邪をひくわけがない。
といっては大げさだが、多少無理をしても若さが手伝って椿は体調を崩さなかった。
それに昨日の椿には咳や鼻水といった風邪の前兆も無かった。
日々の状態を把握してる身として、体調不良を見逃すなんてある訳が無い。
そんな確信めいた自信があった。

といってもサボる奴でもねえしなー。
不思議に思いながら、なんとなく窓際に近づいて空を見上げば分厚い雲が視界を遮り
灰色が視界一面に広がっていて今にも降り出しそうだった。
そんな空を見ているとなんだか頭が重く倦怠感がのしかかってくるもんだから本当にあいつ体調崩してるのかもしれないという気になる。
それに、珍しい事をすると雨が降るって言うもんな、うん。
帰りにあいつの部屋でも寄るか。

そんな事を考えながら頭の後ろで手を組んでグラウンドに向かうと既に選手達がそろっており
おのおのこれからの練習に向けて準備を始めていた。
いつも見る風景。

その中に元気に駆け回る7番が居ないのは少し寂しいと、思った。



練習が終わると今日は松ちゃんいじりもそこそこにまっすぐ部屋に向かった。
あいつにスポーツドリンクの一本でもさしいれにいってやろう。
どうするかな、慌てて出てきてぶっ倒れなきゃいいけど。
何処にでもある鉄色のドアノブに手をかける。
そしていつも通り回そうとして、ガチリと鳴る音と手ごたえに眉をひそめた。

おかしい、鍵がかかっている。

不用心だと後藤か有里が鍵を閉めたのだろうか?
クラブハウスに住んでると有里や会長達が居るもんだから、まぁいいかと鍵をかけてないで練習に行く事も多い。
だから当然今は鍵を持って無かった。

「しゃあねえ、有里に言って開けてもらうか。」

来た道を戻ろうとした、その時だ。


「・・かんとく、スか?」


成人した男にしては高い声がドア越しに響いた、どこか不安そうに揺れるその音に聞き覚えがある。
それは今、ここに居ない筈の男で、体調を崩してる筈だった。

「椿? おまえ、何して・・」
「まわり、だれも、いませんよね?」

何かあったんだろうか、椿の声に落ち着きが無い。
言いたい事をひとまず心にしまい、質問に答えてやった。
そうすると、もじもじとしたあいつの声が聞こえる。
笑わないで、だとか、驚かないで、だとか、俺にもよく分からない、だとか。
聞き取れた事はそんな事だ。
どうにも危機感を感じられないその言葉に眉間にしわができた。
何が言いたい?

ガチャ、と短い金属音がしてゆっくりドアは開いた。
そうして目に入ったのは、資料が散らばった床に、椿の腕、そして

黒い耳。




は?



在る筈の無い物が見えた。
やけに精巧すぎるそれに視線を奪われていると完全にドアが開き、困り顔の椿が目に入る。
うさぎのような長い耳は椿の髪の毛の中から伸びていた。
罰ゲームか何かか?と考えている内に椿の指が伸びて、俺の腕を掴むと部屋にひっぱりこむ。
完全に体が部屋に入った所で勢い良くドアが閉まると、すかさず椿が鍵をかけた。
意味が分からなくて椿を見れば、あわてて俺に向き合い頭を下げた。
床に向って伸びた黒い耳の、その不自然な自然さについ意識がいってしまう。

「すみません、練習を休んで部屋に勝手に入るマネしてしまって・・!」
「えーと、椿、ひとまずソコは置いといて良いから説明してよ。」
「は、はい!」

弾けるように頭を上げて勢いよく口を開けると、迷う様に一度閉じて、また開けた。
俺にもよく分かんないんですけど、そう前置きして話しだした内容にくらりと眩暈がした。
何だよそれ。

「起きたら生えてました」とか。








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