幕間
「さて、と まだいるんだろうタッツミー?」
緩やかな視線が一つのイスに向けられた。
上等な布と木と綿でできたゆったりとしたソファチェア。
そこに一人の男が座っていた。
「君はいつでも自由だねえ、チェシャー猫。」
「お前がアレ食わそうとしなかったら、関わらないつもりだったんだけどな。」
「おや、それはそれは・・お手を取らせて悪かったね、タッツミー?」
「思ってもねえ事言うなよ、うすら寒いっての。」
達海は立ち上がると、自分でティーカップに紅茶を注ぐ。
赤崎が不満そうに眉を歪めた。
そんな事気にせず達海は紅茶を口に運ぶ。
「あー口の中あまったりい」
「そりゃあ、一度であんだけ食べたらね。」
「・・・・危ないよ。」
脈略も無く達海の口にした言葉にジーノが視線を向けた。
「どの口で言ってんだか。」
挑むように、怒るように、だけどもその全てを怠惰の衣に隠し目でジーノを諭した。
ジーノは苦笑の表情だけを浮かべて、やり過ごす。
「禁断の果実、って所かな。」
「そんなに欲しかったのか?」
それを食べたらもう後には戻れない、甘い罠。
そういう結果を作り出す危険な果物だった。
緩やかにも見える沈黙のなか、
結局、ジーノは何も答えなかった。
辺りには赤崎が食器を片づける音だけが響いている。
つまらなさそうな顔をして達海は消えた。