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 ほら、あとは背徳感に目隠ししてしまえ!



練習後、白熱した紅白戦での興奮が収まりきらない椿が視界に入って来た。

しどと汗を流し
頬を赤く染め
荒い息を吐き出す。

その姿に思わず連想してしまった卑しい考えに気付いて舌うちしたくなった。
先ほどまで占めていたフットボールが別の感情に浸食されてしまいそうで
すぐさま視線と思考を切り替える。

「おつかれ」

そう言って肩を軽く叩いた。
他の連中は更衣をするために既にここに姿は無く、コーチ陣もいない中
名残惜しむようにピッチから離れたがらない椿を引き戻そうとした行動は
別の意図を椿に抱かしたらしい。

肩を跳ねさせ、驚いた椿は俺を見て安心したように息を吐く。
やっとピッチから離れる意思を感じ、踵を返すと少し遅れて椿が続く気配を感じる。
地面からコンクリートへと性質がかわり、
スパイクが、かつん、かつん、と無機質な音を立てた。

椿は何も話さない。
せわしない呼吸音が代わりに聞こえた。

クラブハウスに戻る俺と、更衣室に向かうだろう椿が別れるまで後数メートル
そんな所で右の手のひらにぬくもりを感じた。
じわりとにじむ汗は椿の物か、俺の物か?
深く考えず振り返って、後悔。

なんて顔してんだこいつ。

いつも感じるたどたどしさがまるで無い。
ただ、まっすぐに俺を見る。
その見つめられるだけでのぼせそうになる必死さに一瞬、ほんの一瞬だけど気圧された。
椿のくせに、いや椿だからこそ込み上げる物がある。

繋がれた手は強い感情を孕んで力強く握られ離れようとしない。
少しだけ考えるそぶりを見せ、すぐに更衣室とは反対側へとひっぱろうとする。
おそらく拒否すれば簡単に諦めただろうが、
なぜだか誘われるまま人気の無い所まで来てしまった。


なぜだか?
なにかまととぶってんだか。
理由なら、もうわかってるじゃないか。



「達海、さん。」

吐き出す椿の息があつい。
その熱の中に狂おしい甘さがある事に気付いているのに返す言葉がでなかった。
椿が俺の名を呼ぶ時は意識がフットボールから離れた俺という個を意識した時。
つまり、今だ。
振り向いた椿が俺の肩に頭を預ける。
あつい。
椿は体を休ませるべきだ。
疲れを明日まで残さないよう帰すべきだ。
更に負担をかけさせるなんてふざけたことさせてはいけない。

「達海さん、今から駄目ですか?」

俺は監督で、こいつは選手だ。
だけど同時にいじらしいひたむきさにぐらぐら揺れる。
脳内で叫んだ言葉は口にされる事無く心の奥底へ飲み込まれていく。
おまえがそんな目で、顔で、声で、呼ぶのがいけない。

ぐらぐらぐらと理性が揺れる。

「俺、今・・あつくって。」

知ってるよ、だって俺の肩お前の所為ですげえ熱いもん。

「でも足らないんです、もっと欲しい、もっと・・・・」

やめさせるべきだ、聞いてはいけない。
いや気付かない振りをしてしまえ、言わせてしまえばいい。そうすればいいわけが出来る。


「        」





その言葉を聞いた途端、言葉と同じくらい熱い口内を貪っていた。
思考がばらばらになる感覚、僅かに感じる冷たい心は気付かない振りをしてしまった。





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