文章 | ナノ


 厄日



「そういや、クロ。お前が言ってた黒田軍団って何なの?」
「あ?」

朝だと言うのに既に汗ばむような気温の中、怪我しないように入念に体の筋を伸ばす黒田に向かい杉江が言った。
言われた黒田は不思議そうな表情を浮かべている。
「ほら、ハマの事聞かれた時お前言ってたじゃん、石浜は俺の子分だとか、黒田軍団の一員としてとか、なんとか。」
「ああ、あれか。あれはだな・・・」

そう言って意気揚々と語り出した黒田の話をまとめるとこういうことらしい。
いざという時守る奴全員。
サッカーと言う競技上、全ての選手が守備を行うが
その中でも守備の要であるセンターバックやサイドバック、
ボランチに入る事の多い選手の事を指しているようだ。
ああこれは俺も巻き込まれてるな、そう思いながら杉江は気になった事を聞いてみた。

「それって堀田さんとか、コシさんとか入ってんの?」
「馬鹿野郎、んな訳あるか!俺より年上は別だ!!」
「じゃあ亀井とか清とか?」
「おう!」

自信満々な表情を浮かべているが黒田の後ろにいる清川の反応はいまいちだ。
眉間に皺を作り何か言いたげな表情を浮かべている。

「ただ問題はお前だ!!椿!!」
「・・・っ、はい!?」

急に大声で名前を呼ばれ指差された椿が驚いて体を跳ねさす。
何が何だか、と言った様子に椿の隣に居た赤崎が苛立った視線を黒田に向けた。

「朝っぱらから何言ってんスか、あんた。」
「お前には言ってねえよ、赤崎! 攻撃の事しか頭にねえ奴には何も期待してねえ!!」
いつもの口げんかになる前に、やれやれといった杉江が会話に割って入った。
「で、椿の何が問題なんだよクロ。」
「お前だけが攻めんのか守るのかはっきりしねえんだよ、椿!」
「・・は、はい!!」
「この際決めろ、お前は黒田軍団の一員になる気はあるか!?」
「いっ・・・!?」
「またそうやって・・、守りばっか固めてちゃ勝てるもんも勝てねえっスよ!」
「・・・赤崎ぃ、テメーみたいに守備疎かにしてる方がまずいに決まってんだろ!」
「「・・・・・!」」
「「どうなんだ! 椿!?」」

怒りをまとったまま、矛先を向けられた椿が驚きひきつれた声をあげた。

例えば1点リードされ、相手にボールがある。
そういった際に攻撃に出るか守備をかためようとするか。
前者なら赤崎、後者なら黒田を選べ、二人はそう言いたいようだ。
確かに椿は攻撃も守備もどっちつかずだと指摘される事が多い。
しかし突然そんな事言われ、すぐに答えが出せる性格では無いのだ。
更に赤崎と黒田が険しい顔でじっと見つめるせいで動揺が増し、頭が真っ白になっている。
何か言わなければ、そうは思っても、ええと、だとか、その・・とか意味の無い言葉を呟くしか出来ない。


「まあ、状況次第だけどライン上げるか守りを固めるのか、その判断ははっきりしといたほうがいいしな。
迷ったらこうするって今決めるのもありじゃないか?」
「椿がどっちかに動いたら、クロや赤崎だって修正するだろうしね。」
「守るか攻めるか、選手の意志統一は大事だぜ、椿。」

そばにいた杉江に、石神や丹波にまで言われてしまえばもう椿に逃げ道は無い。
背中に冷や汗を浮かべながら視線をふらふらさせる椿。
俺を選べ!と強烈な視線で訴える赤崎と黒田。
冗談交じりに答えを急かす丹波に、笑いながらも助けようとはしない杉江と石神。
万事休すである。

「・・・ええ・・と、・・・あ・・その」

「やだなあ君達、そんなの決まってるじゃないか!バッキーは僕の犬だよ。」







「「「「「「・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」







王子、話の趣旨が違う。

誰もがそう思ったのだが、さも当然のように言い切られてしまえば
いちいち説明するの馬鹿らしい、と誰も反論などしなかった。
黒田は重いため息を吐いてランニングに向かうし、丹波や石神は興味を失って柔軟に戻っている。
杉江は苦笑して、お疲れというように椿の頭をぐしゃっとかきなで、黒田に続く。

「・・・・・たく、どこまで分かって言ってんだか。」
「いいじゃない、ザッキーもバッキーも僕の犬なんだから。これで一件落着って事で。」
「あんたって人は・・・」
重いため息を吐いた赤崎はこれ以上何も言わず、ジーノのストレッチに付き合うようだ。



一人残された椿の肩に誰かの手が乗せられた。


「後で個人反省会な、椿」

不機嫌そうに言う達海に椿は泣きたくなった。


――――――――――――――――――――――――
1勝手に人のもんになってんなよ。
2判断遅すぎ、そんなんじゃ試合中困るぞ。
3ただの椿いじめ。

達海さんの真意はどれでしょう



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -