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 鳥籠 3



水を飲もうと立ち上がった矢先インターフォンの音が部屋に響いた。
特に急ぐこともせず玄関に近づいてドアを開ける。
そこに立ってたのは、なんだか湿り気を帯びた椿だった。

「あれ、どうした?」
「宮野、ごめん今日泊めて」
「いいけど・・・、とりあえず入れよ。」
「うん、ありがと。」

椿は靴をぬいでぺたぺたと短い廊下を進む。
シャワーでも浴びた所なのだろう。
まだ髪の先に水滴が出来つつある事が気になって、
椿の首からタオルをうばって頭にかける。
そのままごしごしとふいていると、いたい、いたいと抗議の声が聞こえた。

「お前ちゃんと髪かわかせよ、できないなら髪切れ。」
「えー・・。」
「ったく、ガキかお前。で、どうしたんだよ今日は」

床に腰を下ろした椿を視線だけで見ながら冷蔵庫を開ける。
ペットボトルに入ったミネラルウォーターを取り出そうとした。

「監督が、倒れた。」
「は?・・・・痛ってぇ!」

不意に訪れた衝撃に気を取られ足にペットボトルを足に落とした。
十分な量が入ったボトルは十分な凶器になりえる事を不本意ながら実感してしまった。その悲鳴を聞いて椿が振り向く。

「だ・・大丈夫宮野?」
「・・・ぁあ、ってそれはこっちのセリフだよ!大丈夫なのか監督」
「うん寝不足と過労からくる貧血だってドクターが、休めば良くなるよ」
「・・・はぁ、良かった。ってびっくりする言い方すんなよ!」
「ご、ごめん!」

椿の言う事は嘘では無いが、あまりにも誤解を招きやすいから真に受けてはいけない。
わかっていたんだけど内容が内容だけに衝撃的だった。

「で?」
「あ、うん、それで監督がドクターからしばらく寮で住むようにって言われて・・」
「え、監督今ここにいんの?」
「うん、俺の部屋に」
「マジで?なんでお前の部・・・ああ、だから」

「うん、だから泊めてほしいんだよ。」

「・・べつにいいけど、うち布団なんてねーぞ」
「いいよ床で寝るから。」

偶然監督と出会ってそこで監督が倒れた、いそいでドクターを呼んで見てもらい。
監督の不摂生がたたって倒れたのだから寮で生活することで改善を図った。
明日にならないと空き部屋に案内できないのでとりあえず椿が部屋を貸して、今に至る。

・・だいたいこんな所だろうか。
小玉電球が部屋を橙色に照らすなか、もらったタオルケットを引き寄せながら説明する。
宮野からはわかったような、わからないような曖昧な返事が返って来た。
どうも俺の言葉は人に伝わりにくい。


「ねえ宮野、話変わるけどさ」
「なんだよ・・」

椿は寝返りを打ってベッドに横になる宮野に背を向けた。

「もし俺が宮野の事好きだって言ったらどうする?」

ぶは。

宮野の口から盛大に吹き出された空気の塊に椿がたじろぎ、振り向いた。

「・・・お前、ホモ?」
「え、違うけど?」
「ああ、よかった。今すぐ部屋から追い出そうかと思った。」
「ふーん、そんな反応なんだ」

淡々と言葉を続ける椿に宮野が噛みついた。

「いやいやいや、普通そうだって。もし俺が愛してるとか言いだしたらお前どうする?」
「・・・気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい。」
「だろ? っつかお前マジで嫌そうな顔すんな、冗談でも傷つくわ。」
「鳥肌が・・・。」

椿は寒さをしのぐように腕を組んで温める仕草をした。
宮野の眉間に皺が寄る。

「お前が言いだしたんだろ・・・!!」
「・・・ははっ。」
「もう、出てけ、お前・・・!!」
「さあ、寝ようか宮野。明日も練習だしね。」

そう言って寝返りをうった椿に憎らしさをこめて視線を送る。
ったく、椿はどういうつもりで聞いたんだか、冗談にしては面白くない。
おやすみと声をかけると、小さな声でおやすみと帰って来た。
宮野からは顔が見えない。
そのうちどうでもよくなって、目を閉じた。




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