文章 | ナノ


 はいはい、頑張りますよ。



すれ違う時、飯の時、練習後、挙句の果てにはトイレの時まで。
じりじりじり、突き刺さる視線がいたたまれない。

鏡越しにちらりとのぞき見れば、またあいつがこちらを見ていた。
大阪ガンナーズ7番、窪田。
ポジションはFW、視野が広くカバーリングとセカンドボールを拾うのが上手い。
洞察力と判断力に優れ、ウチとの試合でも持ち味を存分に発揮し、苦しめられた。
その時は年下なのに凄えな、と思ったんだが・・・・

変な奴だ。

五輪代表候補に呼ばれた中に窪田もいて、まあ接点ねえから話す機会も無く
挨拶くらいしかしなかったんだが初めて会ったときからじぃっとこちらを見る。
気になって話しかけると、でっけえ目をきょろきょろ動かしそわそわして、あの、だとか
その、とかを繰り返すばかりで話が続かない。
そのくせやっぱり視線を送ることだけは止めようとはしなかった。
ったく、何だって言うんだ。
あまりにもイラっときたのでいい加減にしてくれ!くらい言ってやろうと振り向くと

きょとん、とした顔と目が合った。
その様子に逆にこちらがたじろぐ。

これが、世良さんや黒田さんなら遠慮無く言えるのだけど。
全てを呑みこむような黒い目がただ、純粋にこちらを見ている。
そこには悪意なんて微塵も感じられず、いつか見たサインをねだる子供の顔と重なる。
ようするに、毒気が抜かれた。
苦手だこういうタイプの人間は、どう接すればいいのかが分からない。


「お困りのようだね、赤崎」


「うわ!」
呆然としていると背後から志村さんが声をかけて来た。
気配全く感じなかったぞ、今。
心臓がばくんばくん激しく脈打っている。

「クボタン、そろそろ赤崎の背中が穴ぼこになるから、話してみなよ。」
こちらの様子などお構いなくひょうひょうと志村は窪田に話しかける。
チームメイトの顔を見てほっとしたのか、ちょっと窪田の顔が緩んだ気がした。

「あの、赤崎さん、その・・」
それでもまだ、たどたどしいが会話になるだけマシだろう。

「俺こないだの試合、すごく楽しくて、負けたからくやしいんですけど、
その時から椿、君と話してみたくて・・・・」

なんだそんな事だったのか。
つまり、椿と連絡とりたがってんだなこいつ。

「いいよ連絡先教えるから、後でケータイ持って来いよ」
「え?あ、はい、けど椿君に聞いてみなくて大丈夫、ですか?」

律儀な性格してんだな。

「心配なら、俺から言っとっけど気にしなくていいと思うぞ、あいつもお前の事意識してたし喜ぶんじゃね」
「わは! あ、じゃあお願いします。とってきます!」

そう言うと窪田はさっと振りかえってロッカールームへ走って行った。
いや、俺も今ケータイ持ってないし、今じゃ無くて練習後声かけてくれっていった意味で
言ったんだけど・・・。

「嬉しそうだね、クボタン良かった良かった。」
「はあ。」
「ついでに俺にもザッキーのアドレス教えてよ。」
「は?」
「うちの子がお世話になりそうだし、知っといた方がいいと思うんだ。」

え、いや、俺世話焼くつもりなんて無いんッスけど・・。
その前に今何か変な呼ばれ方したような?
この人もずれてるというか、変な人だよな・・。
勢いで押してくるんじゃなくて、じりじりと押してくる力強さがスゲエやり辛い。

結局押し切られてアドレス交換する事になった。
この攻防が終わる頃には窪田がケータイ持ってキラキラした目でこちらを見ていて。
何だか知らないうちに重いため息が出た。
だから、今、ケータイカバンの中だってば。




「赤崎さん、今日飯食べに行きませんか?」

珍しい事に椿から誘われた。
特に断る理由もないし話に乗ると、途端に椿が嬉しそうに笑う。
そこまで喜ぶなんてこれは、おかしくないか?

「もんじゃ食べに行こうと思うんですけどいいですか?」
「ああ、いいけどその前に」
「・・・はい?」
「もしかしてだれかいんの?」
「はい、今日は大阪ガンナーズの窪田さんが。」

あー、あいつか。

「窪田今こっちいんのか」
「遠征の帰りに寄ってくれるようです」
「飯食いに行ったりとかすんのお前ら?」
「前からそんな話はしてたんスけど、実際に行くのは今日が初めてです。」

なんだ、仲良くやってんじゃないか。
窪田も椿も口下手だからてっきりぎくしゃくしてんのかと思った。

「なら、お前らだけでいいだろ。」
「え、何でですか?」

間抜け面で首かしげるな、椿。
心底不思議そうに聞かれて足を踏み外したような脱力感を味わった。

「なんでって・・・あいつ、お前と話してみたくて連絡とってんだろ?」
「あ、はい、嬉しい事に。」
「じゃあ俺邪魔じゃね?」
「窪田さん、赤崎さんにも会いたがってましたよ?」

いやいや、それ社交辞令じゃねえの?
俺、代表の練習中まともに話したのあの1回しかねえんだけど。

椿の顔を見れば俺をまっすぐ俺を見ている。
その大きな目がどことなく寂しげに感じてしまい不思議と罪悪感が湧いて来た。
お前は捨て犬か。くそ。

「まあ、行ってもいいけど」
「じゃあ、お願いします!」


で、


「なんで、あんたもいるんですか」

そう言いたかったが喉元まで出かかった言葉を無理やり呑み込んで、無難な挨拶を口にする。
店の前に居たのは窪田ともう一人。

「やあ、ザッキー元気にしてたかい?」
大阪ガンナーズの司令塔、志村。

「クボタンに今日の事聞いて便乗してみたよ。」

ひょうひょうと言われてしまえば、返す言葉も思い浮かばず、そうですかと言うしかない。
なんなんだ、今日は。
やりにくさに眉間に皺が寄ったのが分かる、このままでは将来堺さんのようになりそうだ。
「赤崎さん、お久しぶりです。」
そろ、そろ、と話しかけるのは窪田だ。
最近大阪とは試合が無かったから最後に会ったのは五輪練習の日だな。

「ああ、こないだの練習以来だな」
「・・・・・・・・・・・・わは!」

変な笑い声も久々だ。

「クボタン、椿君もだけどザッキーにも会いたかがってたからねえ」
「改めて、うちの子もよろしく」

そう言うと志村はすすす、と歩いて行って店のドアを開けた。

社交辞令かと思ってたけど。
もしかして、俺って懐かれてんのか?

不思議な気持ちだ、怖がられ避けられる経験は多々あるが
嬉々としていっしょに居たがる奴なんて初めてじゃないだろうか?
やりづらい。


「「早く行きましょうよ、赤崎さん!」」

嬉しそうに俺を呼ぶ7番達の顔を見るのは、正直、嬉しいかもしれない。
まあ、ありか、こんなのも。





――――――――――――――――――――――
年下+αに懐かれる赤崎さんが書きたかった。
反省も後悔もしている。
だけど、やはり年下に懐かれる赤崎はかわいい。
タイトルは「うちの子をよろしく」の返事のイメージで。
赤崎は面倒見がよさそう、かっこつけだけど。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -