惚気
「脅かせば、まんまるにして驚く仕草だとか、
てんぱってぎこちなく、せかせか動かす腕だとか。
どんだけいじめても、傍から離れない健気さだとかが好きなんだよ。
成人男性にこんな言葉おかしいと俺も思うんだけどさ、すっげえ可愛いの」
「お前みたいに最初は傍に居てくれなくてさあ、
話しかけたらびっくりして逃げたそうにしてるし。」
「けど、気付いたら傍に居たんだよな。」
「今思うとあれ、俺の事気になってるくせに恥ずかしがってたんだろうな。」
「あれ、なにその顔。信じてないだろうお前。」
「まあ、今はもう逃げねえよ。呼んだら傍に来るし、撫でたらびっくりするけど気持ち良さそうに目細めて受け入れるし。」
「あー、お前はこれ嫌いなんだな、悪い悪い。もうしねえよ。」
「だからまあ、ちょっと聞いてよ」
「俺、椿のやさしい所も可愛い所も、意外と頑固な所もすげえ好きなんだけどね」
「一番好きなのは・・・」
「何してるんですか、監督?」
背後から聞こえた声に達海が振り返る。
達海の話し相手は誰かが来た事で帰ってしまったようだ。
クラブハウスのすぐ側、暗闇で隠れがちな視界の中で街灯が二人を明るく照らした。
「ん、惚気?」
「猫相手に?」
「悪い?」
「・・・・・・・・・いえ、それより」
「なに?」
「ぐ、その、笑うの止めて下さい!」
「だって椿がかわいいんだもん」
達海の口元は椿と会ってからずっと笑ったままだ。
「椿どこから聞いてた?顔、真っ赤。」
「う、え・・・と、ああ・・・・!」
椿はおろおろ視線を動かして必至に動揺を乗り越えようとしている。
ただ聞かれた事を言えばいい、それだけの事が言えない事自体が答えだ。
「好きだよ、椿。フットボールが好きで好きでたまらない馬鹿なお前が好きだ。」
椿が背後に隠したボールがぽとんと落ちた。
椿は腕を伸ばして達海を捕まえると、これ以上喋れないよう唇を重ねた。
その行為自体でよりいっそう自らの頬を染めながら。
「・・・もう勘弁して下さい達海さん。」
それはこっちのセリフだと言う様に茂みに居た猫がナアと鳴いた。