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 劇薬と分かって飲み干す





だんだん言う事を聞かなくなってきた膝を手で覆って慰める。
まだだ、まだ俺はやれる。
芝生に腰をおろしてじくじくと疼く痛みを歯を食いしばって耐えた。

空を見上げればやけに明るい月が昇っていて、そのまぶしさに思わず目を閉じた。
椿の事が脳裏によぎる。

ピッチを切り裂くように走る獣のような走り。
どれだけ妨害しても諦めず、前に進むがむしゃらなプレイには俺の頭に危機感を植え付けた。
まだまだ粗削りでお粗末な所もあるが、聞けば年はまだ二十歳だという。
これからだ、椿は。

未完成という響きはどうにも危うい艶に似た魅力があるようだ。
成長した椿と競り合いたいとも思うが、育つ前にこなごなに潰してしまいたいとも思う。
ふつふつとわき上がる闘志に膝の痛みが和らいでいくのが分かった。



風の音しかしないグラウンドはとても静かで、
ざくざくと音を立てる足音がすぐに耳に入る。
その足音は直ぐ背後のフェンス手前で止まったようだ。

持田は足音に気づいてはいたが振りかえらなかった。
顔を見なくても心当たりがある。

「ここ、部外者は立ち入り禁止なんだけど?」
「・・・・・はい。」

声変りはとうの昔に終えただろうが、男にしてはやや高い声。
返事をしたきり次の言葉を言わず、こちらを待つ穏やかな空気が癪にさわる。
ああ、腹が立つ。押し倒して、殴って、犯して、泣かせたい。

プレイする度に増えた肩書き、それに伴い背負わされる思い。
東京Vの心臓、王様、日本代表、周りの期待、重圧。
自分が追い込まれるような状況が逆に面白い。
言う事を聞かない足の痛みさえも俺を燃え上がらせ。
おそらく、もう長く無い選手寿命がより強くピッチに試合に勝利に執着させる。

だからこそ、優しさなんていらない。

「仕方ないから入っていいよ、椿君。」

怯えながらも、俺が気になってしょうがないんだろ?
今日初めて絡みあった椿の視線に、心配の色が混じっている事に腹が立った。
俺は心配される程、弱くは無い。
まだ負けてなんてやらない。

体にも、お前にも。

いや本当は分かっているのだ。
限界が近い事くらい、だからこそ休めと言われる事が怖いのだ。
今休めば二度と立ち上がれない事がわかっているから。
だからこそ、椿の優しさが怖い。

俺にとって椿は自らを燃え上がらせる薬で、俺を壊す猛毒で
それが分かっていても手放せない中毒性があるから始末に悪い。


近づいてきた椿を腕の中に閉じ込めて、フェンスに押し付けた。
がしゃんと音が響く。
照明も、月明かりも届かないグラウンドの片隅で椿を貪る。
息すらも奪うような激しいキスに眉をしかめながらも抵抗しない椿が愛しい。

このままどこまでも堕ちて行こうか。
毒を食らえば皿までと言うだろう?




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