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 だらだらだら



監督の部屋はもともと広くは無いからベッドと机で大部分を占めてしまう。
そこに大量に散らばった紙束とDVDが更に圧迫感を与えている。
そんな中ごろごろと惰眠を貪る達海を前にして、さあ、どう切り出そうか椿は頭を抱えた。

「ったく、もう、俺を呼んだのは監督じゃないですか・・・」

本当に足の踏み場すらないので近づく事すら難しい。

屈んで一枚を手に取れば、書く時間すら惜しむような走り書きで相手チームの動きや
癖なんかが詳しく書きこまれてて一つの試合の為にとんでもない時間と労力を費やし
ているのかが伝わって来る。
その頑張りを思うと寝かせてあげたいと思うのだが
よばれた立場上勝手に帰る訳にもいかない。

手に取った一枚を戻そうとして、近くに続きであろう紙を見つける。
その紙に重ねると続きだろう紙をまた見つけて、更に重ねた。
俺は決してきれい好きでもないし几帳面な性格でもないがやり始めると止められなくなって、
気付けば紙束を集め切り、DVDをケースに戻し終え、ゴミを一所にまとめていた。
すっかり部屋らしくなった景色に満足して、ふうとため息を吐き出す。
達成感が気持ちいい。

・・あれ、何しに来たっけ俺?

まあ足の踏み場を作れた事を良しとしよう。
気を持ち直してベッドへと近づいた。


「起きて下さい、監督」
「えー・・」
「ああ、もう、呼んだのは貴方じゃないですか」
「うん、だけど、もうちょっと・・・」
「帰りますよ?」
「駄目、てか、うん。おいで、椿」

ごそごそと壁側に寄って空いたスペースをぺしぺし叩く監督。
これは完全に夢の世界へ旅立っているようだ。

「もう、寝ぼけないで下さい」
「えー、一緒に寝よう、椿。」

ベッドの端に腰かければ、薄く目をあけた監督が見上げ居て、でも長くは続かなくて、
少し垂れ目な目が伏せられすうすうと健やかな寝息をたてる。
こうしていると15も年が離れてるなんてとても考えられない。
あの越さんやドリさんより年上の筈なんだけどなあ。

ぐらぐら揺らしてみるか、布団を剥いでみるか。
起きるまで待ってもいいがこの分じゃあいつ起きるか分かったもんじゃない。
しょうがない、一度出直すか。
椿は立ちあがろうとして、気付いた違和感にため息を吐いた。

「・・・・・、それは反則でしょう監督。」

相変わらず達海は幸せそうに寝ている、椿の服の裾を掴んで。
外そうとすれば簡単に外せる緩やかな拘束から椿は逃げようとしなかった。

「・・・うぬぼれてもいいですよね、達海さん。」

どきどきしながら椿はそうっと達海の髪に触れる。
ごわごわとした感触を指で感じながら優しく頭をなでた。

「お疲れ様です、いつも・・ありがとうございます。」

無意識だろうが、甘えるように椿の傍に寄りたがる達海に椿は微笑った。






「起こしてくれたらいいのに。」
「起こしましたよ、それはもう。」


時計の長針が二週目にかかろうとした頃、ようやく達海は目を覚ました。
傍に椿が居る事に気付いて、驚いた後ああそうか、俺が呼んだんだった。
と納得して、次の言葉がこれである。
椿からしてみれば、とても納得できるものではない。
達海はさらりと流して、すっかり奇麗に整理された部屋をキョロキョロ見ている。

「どこ、ここ?」
「監督の部屋です・・・。」
「まだ、夢の中かと思った。」
「勝手に触ってすみません、ゴミ以外は捨ててないんで・・・」
「うん、平気平気。それより、・・・・いや、なんでも無いわ。」
「え、そこで止められたら余計に気になるんですけど・・!」

「じゃあ、言う代わりに責任とってよ」

にひーっと笑うその笑顔になんとなく嫌な予感がして気が引けるが
このままというのも気になる・・。ええい、後で後悔しよう。

「わかりました、で、それより何ですか」
「部屋の変わりようより、椿が目の前に居たのにびっくりしたの、夢の中でも会ってたからね」

・・突然の衝撃に、言葉を失った。

「なんか面白い夢でさあ、俺が若返ってて、椿が年食ってた。三十路くらいだろうな。」
「なんか・・・凄い夢ですね。」
「ああ、凄い夢だった。しかも俺が選手で監督がお前なの。」
「まるで立場が逆転したみたいっすね。」
「まさに、そんな感じ」


「で、責任ってどういう事何すか?」
「俺ね、夢の中でお前と約束しててさ、次の試合で勝ったらキスしてもらう、て話。」

「・・・。」

「で、勝ってさ、子供みたいに頭撫でられて、いよいよって時に目が覚めた。」

「・・・・・・。」

「だから、ちゅーしてよ椿。」
「・・・・・・・・・・・・・、おれ全く悪くないですよね、それ。」

さすがに夢の中の俺の行動まではどうしようもないよな。
確かに俺の存在が達海さんを起してしまったかもしれないが。

「うん、でも責任とってくれるんでしょ?」

子供みたいに無邪気に笑いながら言われてしまえば、どうも、断りにくい。
内容だってたいしたことじゃないんだし、それくらいならいいかと思って
ふと気付いた。俺、達海さんならなんでも許しそうな気がする。
よく赤崎さんにちゃんと断れと怒られるが、この人相手にはどうも難しい。
恥ずかしいとか、嫌だと思うギリギリのラインまで近づくのに決して踏まないから。

それに・・・。

唇が触れて、重なる。
首に腕が絡み二人でゆっくりベッドに倒れた。

なんでも背負い込むこの人から甘えられるのは悪くない。

最後に唇を柔らかく吸われて離れて行った。
口内に残る後味に、ぎゅっと眉間に皺が寄ったのが自分でもわかる。


「達海さん、虫歯になりますよ。甘い物食べて直ぐ寝たら。」
「えー、こっちのお前まで子供扱いすんのやめてくんない・・?」

うげ、と心底嫌そうな顔をするから、思わず笑ってしまった。

「だったら、言わすような事しないで下さい」



・・・・・・虫歯ってキスでうつるんですから。




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