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 手を繋いだ、つもり



残り、13分。
大阪行きの新幹線を待ちながら二人並んでイスに腰掛けた。
疲れたサラリーマン、小さな子供の手をひいて歩く女の人、寄り添って歩くカップル。
老若男女入り混じった人の中で窪田はもうすぐ別れると言うのに話す事も思いつかず
ガラス越しに見える駅前の景色をただ、見つめていた。
その横でさっきから椿の手がそわそわと動く。

窪田が気になって椿の視線の先を見たが特に変わった物は無く。
ただ、コンクリートに白線と数字が書いてあるだけである。
また、椿の右手が空中をさまよう。
何度か右へ、左へ手を動かし、そこで止まって満足げに笑った。

「何してるの?」
「何だと思う?」

「・・・、・・、・・・・。」

思いつかないから、聞いたのに。
なにも答えずにいると椿が少し照れた、視線をうろうろ動かして地面を見る。
その視線をもう一度追ってみると先ほどと同じ、数字と線が記されたコンクリートに
もう一つ描かれた物に気付いて、あ。と声が出る。

「気付いた窪田?」
「もしかして、影?」

「そう、その、手を繋いだ・・・つもり。」

こんな人前じゃ出来ないしねと椿が笑う。
長く伸びた二人の影、俺の左手と椿の右手が一つに繋がり大きな一つの影になっている。
そんな二人の目の前をカップルが通る。

「椿、ここに手置いて。」
ここと言うのはイスとイスの間にある小さなスペース。
おそらく荷物置きだと思う小さなスペースをコンコンと指で叩く。

「こう?」
「そう。」

その小さなスペースに並んで手を置く。
小指と小指が触れあう様に。

「これなら人前でも大丈夫、だよね。」
さっきのカップルみたいに指を重ねて歩く事はできないけれど
体温を分ちあう事はできる、これだけだけど。

「・・・・・そうだね。」


それだけ話すとまた椿は口をつぐんだ。
その柔らかい沈黙は決して不快には感じないからとても居心地がいい。
ああ、あと少し、もう少しだけ・・・。


電車のアナウンスが別れの時を伝えた。



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