文章 | ナノ


 グッジョブ!



宮野はふと何か気配を感じて目を開けた。
朝日は遮光カーテンに阻まれ、部屋は薄暗い。
しかし、漏れた光が朝である事を伝えている、起きなければ、いや、その前に。
さっきから激しく心臓を強制労働させてくれる原因と向き合わなければ。

「何してんすか、丹さん」
今にも肌が触れそうなくらい丹波が覗きこんでいた。

「ちっ、おはよう宮野」
「何ですか、その舌うち・・!」
「しょうがねえ、直ぐに準備しろ宮野。時間はあんまねえからな。」
「は?」

碌な説明もされずに布団を剥がされ、言われるままに顔を洗い着替えた。
顔はさっぱりしたが、まだ頭の中は大混乱だ。

「終わりました、丹さん」
「うし、行くぞ!」

そう言ってそそくさと丹さんは部屋を出ていってしまった。
慌てて部屋のカードキーを手にとってあとを追いかける。
部屋を出ると隣の部屋の前に丹波がいた
その右手にはいっぱいに膨らんだ袋が握られている。

「いいか、宮野。今から俺たちは寝起きドッキリを仕掛けに行く!」

・・なるほど、さっきのあれはそういうことだったのか。

「お前の役割はこれで写真を撮ることだ、理解したな。」
「はい。 ・・・ちなみに丹さん、」
「ん、なんだ?」
「もしあの時起きてなかったら俺どうなってたんですか?」

丹さんはニッカーと無邪気な笑みを浮かべ、言い放った。



「枕元にゴッキーレプリカばらまいてから起こそうと思ってた。」

ありがとう俺! 起きて良かった・・・!!!!
これから仕掛けられる奴らには可哀想だが若手の俺は
丹さんの言われるままにするしかない・・・・・・。


いや、嘘だ。抵抗なんて全くする気はない。
むしろ胸から込み上げてくる楽しみに心を踊らせている。
悪いみんな、犠牲になってくれ!

丹さんと目を合わせると、こくり。とうなずき合って突入した。

(おっす、清川鍵サンキュ!)
(本当にするんですねドッキリ、どうぞ獲物はそこでぐっすり寝ています。)

宮野が布団の膨らみに目を向ける。
半分以上布団から体がはみ出し、ぐうぐう鼾をかいて世良が寝ていた。
そーっと丹波が近づいていく、手に持ったそれは定番マジックペン(水性)

よかったっすね、水性で、遠慮無くやられてください!

宮野はカメラを構えた。



丹さん絵うめえ。
瞼の上から少女漫画のような目と渦巻きほっぺを描かれた世良をカメラに収めた
宮野は清川に会釈して立ち去った。
次なる獲物を求め次の部屋に向かう。

丹さんの作戦はこうだ。
昨晩のうちに協力者を作り鍵を開けておいてもらい、そこに忍び込み罠を仕掛け、
すぐに出ていく。現在の時刻は6時15分、起床時間は7時。
残り時間は後45分。ターゲットは残り3人。
時間が経てば経つほど、起きてくるターゲットも増えてくる。
なるほど、あまり時間は無い訳だ。



そんな話をしているうちに次の部屋に着いた。
ここは堀田さんと椿の部屋だ、と言う事はターゲットは椿か・・・。
せめてマシな物に当たればいいな、と思いながらドアを開いた。

(はよー、堀田! ・・・って あれ?)
「残念でしたね、丹さん。 俺が起きた頃にはいなかったっすよ、椿。」
「えー!」
「俺も6時前には起きてたんですけど、散歩でもして・・・、なんすか、その顔。」
「くっそー、せっかく椿にお似合いのやつ持ってきたのに・・!」

丹さんが袋から取り出したのは犬耳カチューシャとクリップで留める尻尾だった。
パーティグッズだがこげ茶色のふんわり毛並みが可愛らしいものである。

「こうなりゃ、お前付けろー堀田ぁああ!!」
「は、え? なんでそうなるんだよ!」
丹さんは素早い動きで駆け寄り堀田さんに犬耳カチューシャをつけると
くるりと回って尻尾を取り付けた。

年を感じさせない流れるような動きだった。

「こら、お前も構えんなカメラ、お、い止めろ!止めてくれ!!」

すみません、堀田さん。
俺の耳は現在仕事を放棄してます。
丹さんが動きを止めてるうちにバシャバシャ、シャッターを押した。

強く迫られると拒否できない堀田さんは凄くいい人だと思います。
どうか強く生きて下さい、堀田さん。

堀田さんの幸せを願いつつ次の部屋に向かった。


(矢野、おっす・・!)
(おはようございます、丹さん、それに宮野も。)
(おはようございます、矢野さん。相部屋の相手は・・・赤崎さん、すか。)
(大丈夫、まだ寝てるよ。)

矢野さんの言うとおり赤崎さんは布団を巻き込みながらぐっすりのようだ。
いつも感じるキツイ視線が閉じられているからか、あどけなさすら感じる。
寝顔って、だいぶ雰囲気が違うんだなあ。

(ぐっすり、眠る赤崎には更に安眠できるようにこれをあげよう!)

そう言って丹さんがとりだしたのは、両手をいっぱい広げたくらいの大きさの
うさぎのぬいぐるみだった。やさしい桃色のうさぎが可愛らしく頬笑みかけてくる。

丹さんは音を立てずに赤崎に近寄ると、そっと腕の中にうさぎのぬいぐるみを
差し入れた、あたかも赤崎が大事そうに抱きしめているかのように・・・。

似合わない、あまりにも似合わない・・・・!
俺と矢野さんは床に突っ伏した、笑いをこらえるためである。
何度も我慢しようとするも、普段とのギャップが更に笑いを誘う。

おこさないよう口を片手で押さえ、震える手でカメラを構えた。

無事に写真を収め、可愛いうさぎもそのままに部屋を後にする。
起きた時、赤崎さんの怒りが矢野さんに当たるだろうが、矢野さんは気付いてんのかなあ。
世良さんや椿ならともかく赤崎さんは怖ええ。

ふと丹さんがもつ袋に目が行った。

「だいぶ減りましたね、その袋」「膨らんでた原因がさっきのうさぎと犬耳とかだったしな。」
「そういえば、どうしたんですかソレ?」
「昨日散歩してたらゲーセン見っけてさ、石神といっしょに盛り上がった戦利品。」

いい年して何やってんですかあんたら。
思わず言いかけた言葉を宮野は呑みこんだ。
代わりの言葉をぐるりと探す。

「そう言えば寝起きドッキリと言う割には一人も起こして無いっすね。」
「よし、じゃあ次は起こすか。」

そう言って丹波さんが立ち止った部屋はスギさんとクロさんの部屋だった。

(おーす、スギ。おはよう)
(おはようございます、丹さん、宮野。)
(はようございます、巻き込まれました。)
(十分お前も楽しんでるだろ、宮野。)

丹さんは再び水性ペンを取り出すとクロさんに近づいた。
クロさんは未だ鼾をかいて夢の中を満喫している、目の前の危機に気付きそうに無い。

(リーングーにー、いーなずま走ーりー)

舐められてる、舐められてるよクロさん。 丹さん もう歌いながらやってるし。
カメラを構える、もしここでクロさんが起きたら責められるのは俺だ。
背中に冷たい汗が流れたのを感じた。

しかし、それでも黒田は起きようとしない。
丹波は唇のまわりを丸く囲って、たらこ唇にすると額に肉、と書いた。

「宮野、これは写真より動画の方がいいんじゃないか?」
「意外とノリノリですね、スギさん。」

ちらりと横目でスギさんを窺うといつもの表情で淡々とこの状況を眺めている。
良く見れば、口元がすこし笑ってる。
とりあえず俺は助言通り
デジカメをムービーに切り替えて構えなおし、RECボタンを押した。

書き終えた丹さんはそっと布団をめくり、ベットの開いたスペースに体を滑り込ませた。
ここまでされても、クロさんは起きない。

「起きろ! きん肉スグル!!」

がばりと抱きしめられ、やっとクロさんは目を覚ました。
目の前には丹さんの顔。(シングル布団に男が二人も入ればぎちぎちだ。)

ぎゃはーと笑う丹さんを目にして、盛大な叫び声が響き渡った。
俺は巻き込まれないよう、そそくさと部屋をあとにした。


クロさんの怒りを軽やかに受け流した丹さんが部屋から出て来たのが6時42分。
そろそろみんな起き始めている頃だ。
「そろそろ終わりですか、丹さん?」
「そーだなー、でもお前に使い損ねたネタ余ってるのがもったいねえな」
「ははは・・・起きれて良かったです。」

「いつも寝坊してるやつって誰かいるー?」
「遅刻って言えば王子ですけど個室ですしね、あとは監督?」

「・・・・・。」
「さすがに監督にドッキリは無理っすよねえ、はは・・」

沈黙が降りた、どちらも無理だろう。
王子は男と二人部屋なんて嫌だと個室でのんびりしているし
達海監督なら未だに寝てそうだが、あの食えない人相手に行う度胸なんて無い。

「・・・・行ってみるか、宮野。」
「っは!?」
「いっぺんあの人が慌てる所見てみたいと思わねえ?」

このキャンプでもこちらは振り回されるばかりでくたくただ。
あの悪い顔を思い出す度ドキリと心臓が跳ねる。
余裕たっぷりのあの顔が驚愕で歪む様をみる事が出来れば爽快な事間違い無い、だが。

「リスク高すぎますよ、丹さん。諦めて帰りましょう」
しかし、丹さんは納得しなかった
行ってみるだけ行ってみようと、俺の服を掴んでずるずると引っ張ろうとする。

そして。

「個室か、達海さん・・。」
「鍵もかかってるし、無理ですね。帰りましょう」

ほっと息を吐いた。
さすがにこれ以上は無理だろう。

「宮野、カードキー貸して」

まだ、諦めてないのかこの人!
よその部屋の鍵で開く訳がないじゃないか!
まあ、無理だって分かればそのほうがいいか、開かないだろうし・・。

そう思いカードキーを渡す。
丹さんはさっとカードを通した。

「ピー」という高らかな音の後、ライトが赤から緑に変わり「がちゃり」と、音がした。
まさか!

「「開いた!?」」

そーっとドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと手前にひっぱる。
音もたてず、ドアは開いていった。

(嘘、え? やばいっすよ丹さん、さすがにまずいっすよこれ!)
(ああ、でもここまで来たらやり遂げようぜ宮野、死ぬ時は一緒だ。)

一人で逝ってください!出掛けた言葉をなんとか押し込めた。
ばくん、ばくんと五月蠅い音をたてて心臓が存在を主張している。
ああ、帰りたい!

俺たちの部屋は東向きに窓があったから遮光カーテンがあっても
ぼんやり部屋が明るかったが、監督の部屋は西向きに窓があるつくりのようで
暗く、前が良く見えない。しかし、電気が付けれる状況でもないので
自分たちの部屋の記憶をたよりになんとか進む。
壁が途切れた、短い廊下が終わって部屋についたのだ。

ごくり、乾いたのどを慰めたくて無理やり唾を呑みこんだ。
その直後、

「なにやってんの、お前ら」

「「ぎゃぁああ!!」」

まさか、後ろから声がかかると思わなくて
我慢する暇さえ無く、大声が喉から漏れた!

ぎぎぎ、とぎこちない動きで背後を振り向けば
だんだん暗闇に慣れてきた目がいやぁあな笑みを浮かべた監督を捉える。

「まあ、早朝にカメラに・・・持ってるもんで想像できっけどな」
「・・・・・!」

必死に言い訳を探すが、もはや言葉にならない。
完全にこちらの分が悪い。

「たしかに、俺ら年も近いし? まあ、考えてる事は分かるよ。」

「けどさあ、選手に舐められる監督ってちょっとまずいと思わねえ?」

「どうしたらいいと思う? おまえら・・・」

ふっ、と笑みが消えて、ぎろりと鋭い目がこちらを捉えた。

「「すぃあせんしたぁあ」」

真っ白になった頭がもう無理だと警鐘を激しく鳴らし
弾けるように頭を下げて来た道をダッシュで戻る、もう嫌だ。
ここに居るのが耐えられない!!

(だからやめましょうっていったじゃないっすか丹さん!)








バタバタと駆け抜けた足音が完全に消えてから達海はふぅ、と気を抜いた。
そっと明りをつけるとベッドに腰を下ろす。

「もういいぞ、出てきて」
「プハッ」

達海が布団をめくると顔を真っ赤にした椿が中から出て来た。

「もうちょっと、あいつらの目が暗闇に慣れてたら正直危なかったなあ。」
「はあ、も、心臓止まるかと思いました。」
「だからって息まで止めなくていいのに。」

ぜえぜえ、荒い息を吐き出す椿を愛しそうに眺めながら達海は椿をうしろから抱きしめた。

「椿、俺の演技力凄くね?」
「宮野と、丹さんの声、っは、必死でした、よ。」
「でしょ、頑張った俺にご褒美ちょうだい?」

椿が振り向こうとしたので腕を放す。
ここ、と頬を指差すと暖かくて柔らかなソレが唇に触れた。

「ありがとうございます、助かりました達海さん。」
先ほどと別の理由で顔を赤くした椿がへにゃっと笑った。

・・・・・どうしてくれよう、この可愛い生き物。
もう一回ぎゅううと腕の中に閉じ込めながら宮野と丹波の事を思った。



Good job !!




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