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 妄想はほどほどに



突き抜ける青空の下、有里の元気な声がグラウンドに響いた。
「みんなー!差し入れ貰ったよー!!」
発泡スチロールのふたを開ければ、ドライアイスのもやが上がった。



「あー、暑いなあ。」

うだるような熱さに身を焼かれながら石神は呟いた。
動いているうちは気がまぎれるが止まれば吹き出す汗をざっと
腕でぬぐってグラウンドの周りを見る。

「・・・・気分だけでも、ねえ。」

ペンギンと白くまのオブジェがそびえ立ち、パラソルとチェアがリゾート気分を連想させる、
とはいってもここは海も、白い砂浜も、波の音も聞こえないグラウンドな訳で、
こんな事をされても気持ちは萎える一方である。

強いて海っぽい物をあげるとすれば・・


「松さんの水着姿だけだしなあ・・」
「どーせなら、有里ちゃんが水着着てほしかったよなあ。」
「会長に怒られますよ、ドリさん。」

一通り練習を終えて気だるい足動かしながら下らない事を話す。

「女の子は水着も良いけど浴衣もいいよなあ。」
「お、堀田良い事言った! 良いよな浴衣、祭りでデート!」
「丸っきり、若手の発想じゃねーか丹波」
「そういうドリさんはどうなんっスか?」

緑川は、ニヤっと笑みを浮かべ淡々と言いきった。
「好きだよ、チョコバナナとか奢りたいね。」
「ぎゃはー、言いますねドリさん!」
堀田が苦い顔をして、石神は相槌をうった。

「若っけなぁーお前ら」
「お、監督。 監督はどっスか?」

石神に聞かれ達海はちょっと考え込む、で。
「フランクフルトの方が好きだね、ソレっぽくて。」
またもギャハー、っと丹波が笑う。
堀田からは、あんたもか。という冷たい視線が送られた。

「だって色も近いし、生々しくてえろいじゃん。」
そう言いかけて、椿の短い悲鳴に達海はふりむいた。



「あーあー、とけちまってるじゃねーかお前の。運悪ぃなお前。」
「はやく口に入れちまえ、椿。」


どうやら、先ほどの差し入れとはアイスらしい。
ドライアイスで保温されてはいたが、何が原因か溶けかけた物が椿に当たったようだ。
同じものを持つ赤崎と世良のアイスは溶けていない。

椿は急いでアイスを口に銜えた。
早く表面の溶けた部分を舐めとろうとして奥までくわえ込む姿は、まさに・・・

ごくり、達海は唾を呑みこんだ。


どろりと粘り気をもつ液状となったアイスが棒を握る椿の手を汚し、ぽとりと服に落ちる。
銜え込む時についたのか、口の端からだらだらと溶けたアイスが顎をつたう様子はどうしてもいけない物を連想させた。
この暑さで次から次へと溶けるようで、一回り小さくなったアイスが何度も口の中に押し込まれた。

動かなくなった達海を不審に思った石神が視線をたどって、納得する。

「監督、そろそろ見るのやめた方がいっすよ。」

しかし、その忠告は手遅れだった。
ビクリと達海が震え、布の上からそこを押さえた。

「あいつ、アイスかむ癖ありますから。」
「・・・もっと、早く、言ってくれ、ない?」

・・椿のアイスは上から半分が噛み切られなくなっていた。



視界の広さを特技の持つジーノは余計な物まで確認してしまったようだ。
ゆるりと口元を持ち上げて、椿に声をかける。

「バッキー、君はアイス齧るの禁止。最後まで舐めて食べなさい。」

意味のわからない椿に対し、達海は今も立ち上がれないでいる。



・・・心のダメージは深刻そうだ。




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