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 七夕 クボバキ



「椿」

背中から回される腕にドキリと心臓が跳ねた。
耳元で声を出されるとくすぐったいし恥ずかしくて照れる。

「どうしたの、窪田」
背中にポスンと頭がもたれる感触。

「なんで、今日が七夕なんだろう」

相変わらず予想できない所から質問が飛んできた。
・・・カレンダーで決まってるから?

「雨降ったら、会えないんだよ。」

織姫と彦星の事を考えていたのだろうか、意外と窪田はロマンティックだ。
「わざわざ梅雨時にしなくていいのにね、今日も雨だ。」

窓を見ればカーテンの隙間から濡れたガラスが目に入る。
ザアザアと雨音。
見事に雨だ。

「これじゃ、会えないなあ。」
「でしょ、だから二人の分まで抱きついておこうと思って。」
「それでそんなにくっついてんの・・?」
「うん。」

うん?
背中に体重をかけて窪田を道連れにしながら押しつぶす。
ぎゃ、と情けない声を出してつぶれた窪田を振り向いて確認。
窪田を押し倒したような体制になる。
「やっぱり笑ってる。」
「わは、ばれた。」
「実はあんまり気にしてないだろ。」
「それも、ばれてた。」


「うわっ」

さっきの仕返しか、両肘を膝かっくん、いや、肘かっくんされた。
べちゃりと窪田の上に倒れる。

「たんに椿とくっつきたいだけ、椿あまりさせてくれないし。」

優しく髪をすく窪田に動揺する、こんな窪田想像できない。
手なれた動きに一瞬彼女にもこうしていたのかと考える。
またたく間にドロリとした苛立ちを感じて、まさか!と思い直す。
たとえいたとしても、俺は窪田の過去まで束縛出来ないし、しちゃいけない。
暗い思考をごまかしたくて、窪田の胸に顔を乗せた。

「わは。」

トクン、トクン、トクン。せわしなく動く音が頭に響く。

「窪田、もしかして驚いてる?凄く心臓鳴ってる。」
「うん、びっくりした、それと今凄く嬉しい。」

椿が甘えた。

そっと窪田の顔を見て後悔、直ぐに視線をそらすも、もう遅い。
顔が熱い、きっと耳まで真っ赤だ。
その顔は反則だよ、うわぁあああ!そんな顔で笑うな!!

「かわいい、つばき。」

女の子に言え!! そんな甘い言葉!!ばっちり見られてたよ、赤い顔・・・。

「そういえば、椿って名前みたいな名字だね。」

ありがとう、話題変えてくれて。
これでようやく落ち着ける、これ以上甘い空気なんて耐えられな―――。

「大介」

追い打ちよこさないでよ、窪田ぁあ!
さっきから心臓に負担をかけてばかりだ、痛いくらいに暴れる心臓を慰めながら耐える。下の名前なんて何年ぶりに呼ばれたんだろう、久しぶりに呼ばれた響きに懐かしさより驚きと気恥かしさが先行する。

あまりのいたたまれなさに身を起して離れようとするも下から腕を取られ再度押し倒された。指と指が絡み窪田の細い体全てを使って閉じ込められた。窪田の体温を感じて見上げるとすぐ傍には真剣な窪田の顔。


「だいすけ、ダイスケ、大介・・。」


一言一言、響きを確かめるように呼ばれ犯されているような錯覚を覚える。
窪田の声が、窪田の匂いが、窪田の存在が染みるように体に入ってくる。
もうやめてくれ!

唯一自由に動く首を動かして噛みつくようにキスをした。
貪りあうように唇を重ね舌を絡まし吐息と唾液が混じり合う。
まるで喧嘩するみたいにお互いを奪い合った。

「ん、・・はぁ。」

疲労感を隠そうとも思わず床にもたれる、まともに窪田の顔を見れなくてそっぽを向くと顔を傾けた拍子に涙がこぼれた、
息苦しさから生まれたソレを見て悔しさを感じる。
今日窪田に振り回されっぱなしだ。
なんとなく気にいらないからすっと息を吸って覚悟を決める。
お前も同じいたたまれなさを感じたらいい!

「晴彦」

窪田は何も反応しなかった。
ぴくりとも表情を動かさず、返事もせず、きまずい空気が流れる。
この状況は予想しなかった椿が慌てるも窪田はただ静かに椿を見下ろすだけだ。

「俺が悪かった、窪田。お願いだから返事してよ・・。」
「もっかい呼んで、大介。」
「え?」
「名前呼んで、大介の声聞きたい。」

真剣に見降ろされ、試合中のような緊張と興奮をぞわりと感じる。必至だ、窪田。

「晴彦」

気づいたら声が出ていた。
「はるひこ」
なぞるように、ひとこと、ひとこと、呟いた。

窪田の顔も赤く染まる事に嬉しさが溢れそうになる。「はる・・・・うぁああああ!!」

鼻血、鼻血!!
真顔で鼻血出さないで!
なんで今まできづかなかったんだろう。窪田は凄く動揺していたんだ、顔に出ないから伝わってこなかったけど・・!





「・・・・落ち着いた?」
「・・・・ごめん。」

ティッシュで鼻を何度か押さえて、ついて無い事を確かめた窪田が情けない顔でこちらを見ている。
「ははは、」
おかしい。ほっとしている、やっぱりかっこいい窪田よりこっちの方がいいや。

「ひどい、椿。」
「お互いの為に名字で呼ぼうか」
(今は、まだ。)

「そういえば、どうなったの? 七夕の話」
「え?」
「あんまり気にしてないんだろ、織姫と彦星。 なんで?」
「ああ、それ? 新暦だと七夕は梅雨ド真ん中だけど旧暦だと8月なんだ。」
「梅雨、終わってるね。」
「そう、今年なら8月19日。 実はこっちの方が天の川とか見やすいしね。」
「そうなんだ。」

「まぁ、なんで7月7日にやるんだろうとは思ってるけどあんま気にしてないよ。」
「予備日とか?」
「は?」

なんとなく思いついた事をつらつらと口に出した。

「年に二回会えるんじゃない?7月7日に雨で会えなくても8月19日があるとか」
「椿、頭いいね。」
凄く、すっきりした顔で真剣に頷かれる。

それでいいの?
まぁ、満足したならそれでいいか。
ぽかんと間抜け面に口づけた。


今日は雨で会えない二人の分までくっついてようか。





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はるひこの漢字は晴彦でよかったのだろうか?
確かめられないので間違ってたら報告お願いします・・。
あ、旧暦だと今年の七夕は8月16日だそうです。
それでは皆様今日一日楽しい七夕をお過ごしください!



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