まどろみの中で
たぶんお前は知らないけど俺はお前が羨ましいよ。
若さとか可能性とか、お前にはそんな夢や希望がいっぱい詰まってる。
自分自身を縛るコンプレックスという枷さえ無ければ、どこへでも行ける。
すっげえいい足持ってんだから。
ボールを奪い合い、ピッチを駆け回る。
一瞬の隙を見のがさず送られる鋭いジーノからのパスをトラップしまたたく間にピッチを駆け上がる7番を目で追う。好調な様子に明るい歓喜、それに紛れどろりとした暗い気持ちが入り込む。
かつての自分と重ねたか?
嫉妬や羨望を自覚すると同時に頭を切り替え愚かな思考を追い出した。
「ピーーーーー!」
高らかになるホイッスル。
見ればゴールネットに包まれたボール、決めたのは世良か。
世良と抱きあう椿の明るい笑顔にまた心がささくれたった。
あれ?
いま、何思った?
ぼやりとかすむ頭では言葉として固まらず、重い心だけが残る。
昨夜の徹夜がきいたか。重い頭をかきながら昨夜の様子を振り返る。
次当たる鹿島の試合4試合ぶっ通しで見たのが悪かったか、
一試合90分、4試合で6時間プラス、ロスタイム。それに加え昨日はETUの試合も見直してたしなあ。最後の方、記憶曖昧だ・・・。 寝ればよかった、頭回んねえし。
ピッチに目線を戻せば、村越に体飛ばされる椿が目に入る。
あいつ、上半身もっと筋肉つけた方がいいんじゃね?
それにしても・・・・。
くそう椿め、やたら視界ちらちら入りやがって。
集中できねえじゃねえか。
「椿がどうかしましたか?」
「え、何で? 松ちゃん。」
「だって、さっきからずっと椿追っかけて見てたでしょう? 監督。」
「・・・・・・・・・は?」
「違うんですか?」
「・・・・・・・・・。」
眠気が飛んだ。
繋がる思考に目から鱗ってこういう事をいうんだなと改めて思う。
世良にだきつかれて、楽しそうな椿の笑顔を見ていらだったのも
やたら椿が視界に入るのも
ETUの試合を見て椿の成長を淋しく思ったのも
いつかここから離れるんじゃないかという不安も
羨望や嫉妬はその裏返しという事で・・・・。
ああ、思えばこれは恋だった。