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 無自覚ターニングポイント 2



「ありがとうございました」
「うん。」

ほかほか湯気を漂わせながら部屋に入る。監督の顔つきがちょっと硬くて怖い。
ああ、やっぱり迷惑ですよね。服まで借りてしまったし。
白いタンクトップに黒いパーカー、黒いズボン。時々見かける監督の私服だ。
あれ、むしろこれしか見かけないような気が・・

「椿」
「はいぃい。」

びっくりして声が裏返った! 無駄な事考えてすいません。

「お前飯食った?」
「飯? あっ まだです!」
『ぐーー。』

言うが、同時に腹が鳴った。体が正直すぎる。もう、消えてしまいたい!
監督の目が冷たいです、気持ちはわかりますがそんな目で見ないでいただきたい。
わざとじゃないんっすよ、ああ、あからさまなため息が一層惨めに感じる・・!
顔が熱い、いたたまれなくて片手で顔を覆った。

「じゃあ、まずはコンビニ行きたい。その前に」
カチリ。
熱風に髪をかき乱される。わしゃわしゃ動くのは監督の、手・・?
まさか!
「おまえなー、一応プロ選手なんだし健康管理しっかりやれよ。」
「す、すみません。ってか髪くらい自分で!」
「だめ。できてないから俺がやんの。」

ぶおー。

ドライヤーの音と一緒に監督の声が聞こえる。
「プロのくせに体粗末に扱いやがって。叱ってやろうと思ったのに」
「お前ときたら、びくびくしてるし、腹鳴らすし、リアクションおもしろいし」

ああだから怖い顔してたのか。
のんきに夜風に当たってる場合じゃなかった。
でも、迷惑で不機嫌になってなくて良かった!

「ったく、まあいいや」
「コンビニ行くよ。」
「ウス!」
いつもみたいににひーと監督が笑うからこころからほっとした。





野菜たっぷりが売りの弁当を監督が買ってくれた。
タマゴサンドとドクぺとお茶をかごに入れる。
で、次はスナック菓子がぽいぽい入る。中にチョコがはいった者が多い。
監督は甘党のようだ。

改めて監督の部屋を見ると凄い部屋に住んでた。監督は凄いけど変わった人だ。
あんなにビシャーとゲームを読むのに普段はふにゃふにゃしている。
部屋の大部分はベッドと棚と机が占めてあり、机の上や床一面にノートが何冊も積まれ
書きかけの紙やDVDがその隙間を埋める、人一人が座るのがやっとだ。

まあ、そんなものかと思うと俺も監督にならい適当に場所を作ってその場に座る。
監督とテレビに映った試合を見ながら飯を食う。会話は無い、でもその方が俺にとっても都合が良かった。人と話すのは得意じゃないし、なによりサッカーが目の前にあるならそちらに食い入りたかった。J2の試合だから今季はETUと縁が無いだろうけどすぐに夢中になる。試合は前半終わって1−1の好ゲーム、お互いシュート機会にめぐまれず点をとれそうな雰囲気でない。



後半10分無意識に監督と同じ言葉をつぶやき会話が始まる。
「「もったい(ないなー)ねーなー、このスペース」」
「だよなー! ここ!」
監督が指でテレビに丸を書く。
「こう、横からばさーってきたら、向こうがあーなるだろうし」
「そーすね、その隙に11番が飛びこんだら得点の大チャンスです」

後半27分意見が分かれ討論になる。
「でもそれじゃあれっすね。もっとこっちの選手に上がってもらって」
「はん、そんなんでどうするよ。 俺ならここをきゅっとして積むぞ」
「ん。だったらこーっす、裏のスペースを・・・」

ロスタイム45秒  討論からETUが相手だったらに変化。
身振り手振りを加えての対話になる。双方の表情は険しい。

試合終了後17分  話題が盛り上がり内容変わらず続行中。
ヒートアップ、指が舞う。手が踊る。腕がおどる。
二人の表情がきらきら輝き子供のように夢中に話しこむ。

試合終了後だいぶ時間たって・・・
  
「あ、テレビ砂あらしじゃん」
「もうそんな時間っすか。」
「寝るかー。」

うーんと達海さんはのびをするとテレビを消した。
つい楽しくて夢中になってしまった。
達海さんとこんなに話し込んだのは初めてだ、凄く胸が熱い。
できるなら今すぐサッカーしたい。

(・・・あ。)
ふと気付いた、どこで寝よう。
ベッドはひとつしかないし、床は物に溢れていて座るのがやっとだ。




選択、間違えたかも・・・。
椿の頭に本末転倒という言葉がよぎった。


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