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 駆け込み計画はやめましょう



笑い声、食器が動く音、話し声。
ガヤガヤと賑やかな雰囲気に包まれた大部屋の中で世良、赤崎、椿も昼食をとっていた。

「でさー、思ったわけよ。バッキー&ザッキーで歌って踊ればいいんじゃないかって」
「嫌ですよ、そんなの。」
「無理無理、無理っす!」

「えー、アイドルみたいでいいじゃん。」
「だいたい、あんたは何すんですか?」
「俺は音響とか、応援?」
「ずるいッス 世良さん!」

一人おいしい所を持ってこうとした世良を全力で引きとめる。
赤崎と椿に詰めらて諦めた世良はふてくされて天井を仰ぎ見た。

「俺、何回こんなのやったと思ってんだよ! 今年こそ卒業してもいんじゃね!?」
「なら、俺もそうでしょう。 ETU歴でいえば世良さんよりだいぶ長いんだし」
「それは違うだろ、赤崎。」

いきなり何の話だ?と思われるだろう。
実はもうすぐETUファン感謝祭がおこなわれるのである。
選手はその際ものまね、演劇、コスプレなど何か出し物を行わなければいけない。
そしてそういったものは若手の仕事でありそこに拒否権など無きに等しい。
だからこうして世良、赤崎、椿の3人も出し物について真剣に考えているのである。


「でも、アイドル物だと男物きれるだけでマシじゃね?」
その言葉を聞いて椿の背中に冷や汗が流れる。

おそるおそるといった様子で世良を見つめると、そっと声に出した。
「・・・去年、何したんですか?」
「セーラー服着て女子高生コント、赤崎と二人で。」

ぶはっ

椿は歯を食いしばると、険しい顔で床を睨みつけた。
しかし、そうやせ我慢が長く続くはずもなく肩が小刻みに震えている。

「・・・・椿、てめぇ 」

赤崎が苛立つと、通りかかった清川がするりと赤崎の肩に腕を絡ませた。

「あー面白かったぜ、こいつ。 似合わないにも程があるだろ!って感じで」
「会話に入ってこないで下さいよ、清さん!」

赤崎は照れと後輩にかっこ悪い所を知られたくなくて邪険に扱う。赤崎からきつい言葉を貰う事が多い清川は赤崎の焦る姿に機嫌を良くし、ますます絡んだ。

「もー、人事かと思うと面白くてしょうがねーよ、世良はまあ似合ってたな」
「チビだしね、顔さえ見なきゃ違和感なかったですよ」
「赤崎!変わり身早えーな!!で、また一言多いんだよテメエ!!」

言葉も無くしている椿を見て、さすがに清川は申し訳なく思ったようだ

「まあ、去年こいつら締め切りまでに意見言わなかった結果がこれだしな。前もって準備しとけばそうひどいもんやらなくていいだろうし、じゃあ頑張れよ。」

そうフォローして清川は隣の机に座った。
・・ちなみに椿はセーラー服の赤崎を想像して
笑いを我慢していただけだったのだが。

「しょうがねえ、早く決めちまうか・・。」

気を取り直して真剣に向かい合う。
要するに祭りで肝心なのはノリと恥ずかしがらずやりきる事だ。


「歌が駄目なら劇か、ものまねとかだなー。なんか持ちネタねーのお前ら。」
「「あんまり、テレビ見ねぇ(ない)っすから」」
「あー・・、ぽいな。」
「世良さんは無いんですか?」
「俺、勢いだけでぜんぜん似てねえって言われた」
「「あー・・、ぽいっすね」」
「息ぴったりだな、てめぇら・・!」
「怒っても威厳ないっすね、世良さん。」

「ほ、他の人は何したんっすかね!!」

赤崎に掴みかからんばかりの勢いだった世良は、その声にとりあえず諦めたようだ。
ほっと椿は胸を撫で下ろした。
赤崎は素知らぬ顔で茶を飲んでいる。








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