思慕迷路
タツ←バキ
好きです、愛しているんです。監督として、人間として、恋人になりたいという意味でも。心にたまるこのドロドロとした気持ちを目の前で吐き出したら少しはなにか変りますか。
練習が終わり、寮に帰る。
夕食を食べたら、ボールを持ってクラウンドに向かう。
もはや日課となった自主練中、時々ふらりとあの人は現れる。
会えて嬉しいと思い始めたのはいつのからか。
気づけば心のどこかで期待している。
今日は空全体に雲がかかってて、その為かいつもより視界が暗く感じた。
自主練は中学、高校からずっと続けている事だ。
自分ひとりの為に照明をつけるわけにはいかなかったから
暗い中でボールを蹴る事だって苦では無い。
思い切って蹴ったボールは吸い込まれるようにゴールに入った。
「おー、調子いいじゃん今日は」
会え、た。
心臓が暴れて口から吐き出しそうに感じる。
ばくんばくんとあまりにも大きな音でなるもんだからぎゅうと胸のあたりを掴んだ。
「ってか、お前未だに固くなんのかよ」
「すみません」
「別に謝ってほしいわけじゃねーんだけど。」
一歩、また一歩、監督が俺に近づく。
すぐそこに監督がいる、手を伸ばしたら届きそうだ。
その時雲の切れ間から月光が差し込んできた。
月あかりに照らされた監督の笑顔を見て、今なら何を言っても許されるんじゃという根拠のない確信が生まれる。こうなるともう、今しかない!という焦りに捉われてそれしか考えられなくなる。
言ってしまおう。
振られていい、このままでは好きだという気持ちに押しつぶされそうで窮屈なんだ。どんな形でも、変化が欲しい。中途半端なぬくもりはもうまっぴらだ、期待などしたくも無い。
息を吸って口を開いた。
唇に指の感触。
これ以上は近寄るな。
意志の強い目が、眉間に寄った皺が、苦く笑う唇がそう叫んでる。
そこには俺には見えなかった透明で硬い壁が在った。
透き通ったその壁はとても美しく向こう側の世界を見せるのに
どうあっても俺をそちら側には行かせないのだと知らせている。
「そうだ、お前今度の試合でさ」
ああ、言わしてもくれないんっすね。
何食わぬ顔で続けられる言葉に、この話はこれで終わりだと言われた気がした。
拒絶するなら言葉にしてくれたらいいのに、そうすれば諦めれる。
貴方は卑怯だ、ずるい。
あの筋張った指を噛んでやれば良かった。
離れられたらどれだけいいか、忘れられたらどれだけ幸せか!
それでも俺は、あなたを
飼い殺しバッキー
達美は思われて嬉しく思ってるけど付き合う気はない。
かといって手放さないあたり酷い。