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 ずるいのはどっち?



パーカ3回、DVD、雑誌、ケータイ。
あと、時計とか。
俺は監督の部屋に行くたびに毎回何か置いて行く。
ぱっと見で分からない、見つけにくい所。
チキンで口下手な俺では監督を誘う事ができそうにないから
必至で次に会う口実を作るのだ。

でもそろそろ忘れ物作戦も潮時かもしれない。
さすがに、これ以上続けるのはわざとらしすぎるよなぁ・・・。
あの目ざとい監督の事だ、気付いてない筈が無い。
監督の部屋に向かいながら代わりに良い案は無いかと必至に考える。

俺、監督と二人で出掛けるような場所知らないし。
1年近くこの街にいて案内してください、って言うのはおかしいし。
あ、監督も今年帰って来た所だし、だめだこの作戦は。
そもそも監督と選手が二人で出掛けるって大丈夫だろうか?
贔屓とか誤解されたくない、監督に迷惑をかけるのだけはしたくない。
すると、やっぱり俺が監督の部屋に行くしかないんだよなあ。
・・・・。
・・・・・・・悲しいほどに誘い文句が思い浮かばなかった。

見慣れたドアが時間切れを知らせている。



パーカ3回、DVD、雑誌、ケータイ。
あと、CDとか。
椿はそそっかしい。

いつも俺の部屋に来る度なにか忘れ物をして帰る。
こないだはベットの下から時計が出てきた。
どうやったらこんな所にわすれていけるんだ、と笑ったもんだ。

こうまで続くとわざとやってんじゃないかと疑う。
「けど椿だしなー」
まっすぐ、純情、単純、素朴。
椿といえばこんなイメージが強い、こんな駆け引きめいた事はできないだろうと
先ほどの思考を否定した。

きっと椿は嘘がつけなさそうだし、それに誘導尋問とかも弱そうだ。
あ。それ面白そう。
今度、そのネタでいじってみようか。
自然に頬と口の周りがゆるんできたのを自覚する、性格が悪い、いじめっこだ。
なんて言われる事もあるが性分というのはどうも直りそうにない。
むしろあいつがリアクション良いのが悪い、ついかまいたくなるではないか。

そんな事を考えてるとひかえ目なノックが聞こえた。
おそるおそる入って来た椿を招き入れる。
顔にごめんなさい、すみません、恐縮ですと書いているようだ。
後悔はしても繰り返すあたり反省をしないタイプか、おい。まあいいか。

つけっぱなしのテレビに視線を戻した。

「あ、川崎と大阪の試合ですか。」
「次当たるしねー川崎。」
「すみません! お邪魔でしたか!? 俺帰りま・・」
「別にいてもいいよ、一緒に見たら?」

せっかくきたんだし、と続けると椿はぱっと花が咲いたように笑った。

こうも素直に喜ばれるとつられて嬉しくなるものだ。
これだから椿と一緒にいるのは飽きねぇなあ。


時計の針はかちかち過ぎて、空は橙から闇色に衣替えした。

「それじゃあ、俺そろそろ・・」
「お前な―、また忘れてたぞ」
「あ、すいません。」
椿は腕時計を受け取ってその場で装着した。

これで、会いに来なくなるのかなあ。
それは寂しい、ような
いつの間にか自分の生活の中に椿と一緒にいるのが当たり前になってる事に驚いた。
くたりと壁にもられ腕を組んで気分を紛らわす、冗談でもいわないと動揺しそうだ。

「ったく、器用に毎回忘れ物しやがって。 わざとかっつーの」
「え、わざとっすよ?」

「・・・は?」

「こうすれば明日も会えますから・・・・って、えっ?」
「ま、まさか監督、気づいてなかったんですか!? 」

肩にかけようとしていた椿の鞄はつるりと目的地をすべり、ガシャンと地に落ちた。
その拍子に中の物が飛び出して床に散らばる。

それからの椿の行動は早かった。

慌てて荷物をまとめると肩にかけ、顔を真っ赤にして逃げた。
ETU、いや、Jリーグ最速の男の足はあまりにも早く、後に一人残された達海は
ぽかんと椿を見送るしか出来なかった。

言い逃げだ、返事すら聞かねえとはなんとも卑怯な奴め!!

壁に体重をあずけずるずると座りこむと、足元に何かがきらりと光るのが見えた。
無意識に手に取った達海の表情が変わる。呆然とした表情から、不敵な笑みに。
部屋に戻ると、今度は無くないでね!と念を押しながら渡されたケータイを手にする。
相手は、もちろん。

「逃がしゃあしねえぞ、椿」

達海の手には椿の部屋の鍵が握られていた。




ルート0の市子さんと相互リンク記念作品で文章もリンクしています。
私が「ずるい椿」担当でした。
市子さんがこの話の続編を書いて下さってます。
もう、キュン死覚悟で読みに行って下さい。素敵すぎる・・!




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