文章 | ナノ


 君を思う



暦上では春をつげても吹き抜ける風はまだまだつめたい。
ぶるりと体を震わすと背を丸めてクラブハウスへと歩みを進めた。
一歩踏み出すたびに手にしたビニール袋がカサカサと音を立てる。
曲がり角にはつやつやとてりを持つ葉が目につく植え込みがある。
いつもなら意識もせず通りすぎるのに、今日はぴたりと足を止める。
その足元には一面に赤い花が落ちていた。
おもむろに花を摘まむと達海は鼻に近付けた。
その花に匂いは無い。
だからこそ、その花言葉は「ひかえめな愛」「きどらない美しさ」だという。
おそらく達海は知らないだろう。
しばらくその花を見つめる。
そして不敵にニヤリと口元をもちあげると、ヒュウとまた風が通り過ぎた。
目的地変更、タマゴサンドはグラウンドで食べよう。
寒さに耐えきれなくなって止まっていた足を再度動かした。



お、目標発見。
「あ、監督。おはようございます!」
「早いな、まだ練習までだいぶ時間あるのに」
グラウンドには俺と椿だけ。
椿は大きい目をくりくり動かし、イメトレがしたくて早く来たのだと答えた。
お前もたいがいフットボール馬鹿だよね。
「がんばってる椿君には、これをあげよう。」
ぐしゃーと椿の黒くてごわごわした髪をかき乱した後、持っていた花をさした。
もちろん茎がついてないので重力に従いひゅうと地面に向かって落ちてゆく。
「え、わわっ。」
椿は椿の花をキャッチした。反射神経も良いなあお前。
とっさに捕まえた花を見た後、首をかしげてこちらを見た。
「おぼえとけ椿」
視線が絡まる。
「お前が俺の傍にいる限りそんな真似はさせない」
「潔い?ばかばかしい。」
「やれる内はとことんやれ、きれいな内に引退なんて許さねえ。」
「しわくちゃになるまでこきつかってやる。」
目をまんまるにして、ただただ椿は俺を見てる。
反応が無い。
あれ?伝わらなかったか?

「・・・・・だったら」
「ずっと俺の傍にいてください。」
椿はまっすぐな目で、真剣な表情のままはっきり言った。

・・・・・っ。反則だろ。まさかあの椿が。
照れ屋で言葉が不器用で誤解ばかり招きこむあの椿が!
ああ、今俺凄く幸せかもしんない。
「まさか、そんな嬉しい事言ってくれると思わなかった。」
椿の顔が瞬時に赤く染まる。


え、なんで今更照れるのさ。





√0の市子さんに捧げた初タツバキ文でした。
そして、サイトしてみては?と言っていただけた記念作品。
その一言が無ければきっとイチノジは無かったと思います。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -