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 月明かりのスポットライト



(7+10+15)


「あれ?」
ポケット、鞄も確かめるがやはりケータイが無い。更衣室にでも忘れて来たのか?
明日でいいか、とも思ったが急な連絡がはいってもまずいか、と思いなおす。
しょうがねぇ・・、車のキーを手にとって靴を履きドアに手をかける。天気予報じゃ雨と言われたが見上げれば星空。
めんどくささから落ちていた気分が少し持ちあがり、気が軽くなった。


「やっぱりここだったか」

15 AKASAKIと書かれたロッカー、そこに見慣れたケータイを見つける。
それを履き古したジーンズのポケットにつっこむと来た道を逆走した。
ふと感じる違和感に眉をひそめる。

グラウンドから音がきこえる?

こんな時間にだれかがいるとは思えない。
無視して帰ってもよかったが、ここまで来たら確かめてから帰りたい。そう思ってグラウンドへ足を運んだ。グラウンドまで近づこうとして聞きなれた音が混じっているのに気付く、自分以外の足音だとか、弾むボールの音だとか。
ガコン
今のはシュートがゴールポストに弾かれた音か。
こんな時間に? 誰だ?

更にグラウンドに近づくと見慣れた後ろ姿が見えた。
黒と赤のユニフォーム、高くも低くくもない身長、跳ねる黒髪。
「椿?」
ひたむきにボールを蹴り、おっかけ、グラウンドを駆け巡る。
時々聞こえる笑い声。
そこにはガキみたいに無邪気にサッカーをしている椿がいた。

あいつ、あんな顔もできるのか。

椿と言えばいつも大人しくて、なにかあればガチガチに緊張してる姿が印象に強い。
笑顔ってあんま見た事なかった、ような。
いつも、あんな顔すればいいのに――。

「つ・・・」
「しー、駄目だよザッキー」

不意に後ろから声をかけられてどきりとする、誰だと考えるまでも無い。
こんな呼び方をするのはひとりしかいないからだ。

「おどかさないでくださいよ、王子。」
「はは、ごめんよザッキー。でもあんなにバッキーが楽しんでるんだ、
邪魔したらかわいそうじゃないか。」

王子はややひそめて声を出す、実は気をつかえんだな王子って。
意外な一面を見た気分だ。その甲斐あってか、椿は俺たちに気付いてない。
両脇に一つづつボールを挟み、ドリブルでボールを運びながら頭でもリフティングするという曲芸めいた動作で4つのボールをを運ぶと、またシュート練習に戻った。

「ふふふ、本当にフットボールが大好きなんだね、バッキーは。見てるだけでこっちまで伝わってくるよ。」
「そうですね、ただなんで誰かがいるとこういかないんだか。」
「ザッキーはいつだってザッキーだからね。」
「王子、それ褒めてんっすか?」
「いいじゃないか、君の強気なプレー悪くないと思うよ。」
王子はまたふふと笑うと椿のプレイに視線を向ける、その目がやたら優しい気がした。

「なんか、今日の王子アイツのお兄さんみたいですよ」
王子はおや、と驚く仕草をした後ふわりと笑った。

「まさか君にそんな事を言われるなんてね、僕はいつだって君がバッキーのお兄ちゃん
 みたいだって思っていたよ、だって君なんだかんだ言ったってバッキーに対しては面倒見いいじゃないか、仲良く睦まじいから見ていて心が暖かくなったよ。」
「・・・じゃあ、俺の兄貴は王子ってことになるんですかね」
「っはははは・・」

王子が笑った! 本当に今日は珍しい物ばかりみる日だ。

「言われて悪い気はしないよ、じゃあ弟よ、がんばってる末弟を労ってきてくれるかい?」
優雅な動作で紙袋を渡された。
「何ですか、これ。」
「今日ね、折角レディーが僕にくれたんだけど置き忘れてしまってね。」

ああ、だから王子もここにいたのか。で椿を見つけたんだな。

「ここで会ったのも何かの縁だ、仲良く食べなよ」
ついでにバッキーも乗せて帰ってあげなさい。
そういうと王子はくるりと踵をかえし、帰って行った。
紙袋の中には切り分けられた焼き菓子に紅茶とスポーツドリンクのペットボトルが二本。
ん?なんで二本なんだとペットボトルを触ると、それはまだ冷たかった。
もしかしてこれは王子が買ったんだろうか?
椿に差し入れるつもりで――。

「やっぱりお兄さんって感じだな、王子は。」
俺が思っている以上に王子はチーム思いかも知れない。
椿をみるとさすがに疲れて来たのか荒い息を整えクールダウンを始めていた。
「さて、末っ子を可愛がるか。」
未だ何も知らず、のんきにスポットライトを浴びている椿の元に向かった。


今日の月はやけに明るい。
見上げると満月がどうどうと居座っていた、きっと明日も晴れるだろう。






バキジノザキは3兄弟だといいじゃないかと強く思う。







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