炬燵に入りぬくぬくとして、机の真ん中に置いてある蜜柑に手を伸ばす。そして、蜜柑の皮を剥いてひとつ口に放り込めば甘酸っぱい味が口に広がった。それから、独り言のようにポツリと言葉を出した。

「一年あっという間やったな」
「そうっすね」

相槌が返って来た。別に、相槌が返ってくることは可笑しくない。けど、返してきた相手が可笑しかった。財前光、オレの後輩で恋人というレッテルを持ったやつ。…うれしいけど、なんでおんねん。此処、オレん家やで?忍足家やで?

「なんでおんねん」

そう告げれば、嫌そうな目でこちらを見てくる。ほんま、こいつは一年が終わるのに相変わらずやな!来年も生意気な態度は変わらんやろなあ。

「謙也さんのおばさんに、善哉食べに来ん?って言われたんっすわ」

さらりとオレに言う光に、おかんとなんでそんな会話してん。と疑問に思った。

「おかんといつの間にそんな話したん?オレ聞いてなかったんやけど」
「あー、…言いてはりませんでしたっけ?俺とおばさんメル友なんっすわ」

メル友、メル友?メル友!?ええ、メル友ってメール友達やろ?なんで、光とおかんがメル友やねん。知らんかったっちゅー話や!ちゅーか、今で何回メル友言ったんやろ。

「姑と嫁さんが仲良いほうがええやろ、謙也さん」
「ま、そら…ってちゃうわ!結婚出来んわ!!」
「うわ、新年を迎えるあと少しやのにぶち壊しですわ、夢みさせてもらいたいわー」

ないわ、ほんま謙也さんないわ、だからスピードスターやねん、とぶつくさ言う光。ああ、もうなんやねん…いつもやったら、はあ?なに言うてますの謙也さん。俺等男同士ですわ、結婚とか出来ませんよ?知らんのですか?とかお前が言う方やのに。

「謙也さん」
「ん?」

ぶつくさ言うのを止めた光が、オレを呼ぶ。その呼び掛けに反応して、光を見ればいつものにやりとした笑みではなく優しいふわっとした笑みを浮かべた光がおった。それをかわええな、とおもっとたら光が軽く口を開いた。

「来年もよろしくお願いしますわ」

たったそれだけの言葉やのに、無性にうれしくなって心が踊る。来年も光とおれて、いろんなことできたらええなあ。

「おん、よろしゅう」

にっこり笑えば、きもいっすわって光らしい言葉を頂戴したから、なんやと!と言い返した。それからいつものそんな会話をしていれば、キッチンからおかんの善哉できたでーっていう声が聞こえたから、二人でキッチンに向かった。

(来年もよろしゅう!光!)
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