リピート、リピート

真田、真田、真田何回この名前を口にしただろう。何百回、はたまた何千回だろうか。ひとつの名詞である真田という苗字を。今では、当たり前のように真田をそう呼ぶが、…弦一郎、そう弦一郎。彼をこう呼んでいたときもある。それは記憶としてまだ俺自身に残っている。…弦一郎、そう今更呼ぶのは、とても恐怖で満ちていた。いつからだったろうか、名前を呼ばずに苗字で呼び始めたのは。特に意味を持たなかった気もしようで、しない。ああ、よくわからない。でも、今真田をそう呼びたいのは事実だ。きっと無理なことだけれど。

「…弦一郎、」

だから、部室でひとりそう呟く。それは静かに響くだけで消えてしまうほど小さい。

「弦一郎、弦一郎、弦一郎、…げ、ん一郎」

何度も何度も繰り返し、機械のように名前を呼ぶ。そうすれば満足感に浸れると自己解釈したからだ。決して本人には向けることはできないけれど、口に出すくらいならと思う臆病者な自分。虫酸が走って嫌になる。だから、次を最後にしようと思い口を開いた。

「弦一郎」
「…なんだ」

返されることはない呼び掛けに、帰ってきた返事。声がした方を見れば、僅かにだけど頬を赤くした真田が居た。なにしてるんだよ…まったく。…それよりもどうしよう、聞かれてしまった…真田に。

「久しいな、お前がそう呼ぶのは…」
「…嫌だったかい?」

一人、どうしようかと解決策を考えていれば真田がそう口にした。そして真田のその言葉にどきりと心臓が揺れ、名前呼びについて尋ねる。ここで一番の恐怖が俺を襲ってきた、もし嫌だったと言われたら?俺はどうすればいいのか、いやどうもすることはないのだろう、ずっと永久に永遠に真田と呼べばいいことなんだから。

「いや、ゆきむ…精市に呼ばれるは好きだ」

悪い方向に考えていたけど、見事にそれは壊された。好きという言葉を貰い、そして俺自身も精市と呼んでくれた。ふふ、さな…弦一郎は俺が望むことを全て簡単に成し遂げてしまうから、ある意味怖いよ。嬉しいんだけどね。そして、俺もある言葉を投げ掛けた。

「俺も弦一郎に呼ばれるのは、好きだよ」

(それよりも何しに来たの)
(うむ、忘れ物を取りに来たのだ)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -