物語と現実

「愛って憎しみに変わるん知ってます?」

突然、光が口を開いて告げた。愛が憎しみに変わるってどういうこっちゃ。また、本とかドラマとかの影響なんか?

「どういうことやねん」
「授業で、愛憎之変ってやつ習ったんっすわ」

愛憎之変?あー、確かオレも習った気もすんねんけど、内容はさっぱり覚えてへんな。あかん、まだ一年前くらいのことやん、あ、でも仕方ないんか?記憶って、一度は忘れるみたいやしな人間の脳って。

「謙也さん?」
「へっ、あ、すまん」

ひとり、記憶がどうこう考えとったら光に名前を呼ばれ我に帰る。あかん、あかんっちゅーねん。光とおんのに、葛藤に励むとかどんなんやねん。

「まあ、ええですけど。愛憎之変って君主に寵愛されとった美少年の弥子瑕の話なん知ってます?で、なんでもある日弥子瑕の母親が病気になったことをあるやつに告げられて、母親の元に君主の馬車に乗っていったんです。でも、まあその国の法律では勝手に君主の馬車を使うんとかは足切りの刑罰に値するらしいっすわ。まあ弥子瑕も勝手にやったんで、足切りの刑罰になると思うやないですか。けど、君主はえらい弥子瑕のこと愛しとったから親孝行者だとか言って終わり」

呆れた様な、なんて表現したらええかわからんけど、光はそんな表現を浮かべとった。

「で、それがなんなん?」
「謙也さん、まだ話続くんのわかりません?これやから、なんちゃらのスターはまったく」
「なんちゃらってなんや!浪速のスピードスターやっちゅうねん!!」

反論するもあー、はいはいと投げやりにされた。それに、また反論しようと思ったんやけど光が再度口を開いたからオレは辞めた。

「で、続きっすわ。また別の日に君主と弥子瑕は果樹園に行って桃を食べるんや。弥子瑕は自分が食べとった桃が甘かったっちゅうんで桃の残り半分を君主に上げたんや。普通、ありえへんやろ?自分の唾液がついたモノをなんも躊躇なく君主にあげるとか。でも、君主も大概で弥子瑕は我を愛してるんだなあ、とかいうたらしいっすわ。…まあ、愛されとるとか少しはええなとは思いますけど。あ、で、何十年経ったから弥子瑕の美貌も変わってまあ、醜いことになったんやろな。君主はそんな弥子瑕への愛が薄れっていってついには、前にあった馬車とか桃での出来事を掘り返して刑罰を下すんっすわ。まあ、これで終わりなんですけど。どうでした、謙也さん」

そう言って、オレをじーっと見つめてくる光の瞳にドキドキしながら、言葉を返す。

「要は、美少年だった時は愛して美少年やなくなったら、なんで醜いんだとかいちゃもんやないけどそんなん付けて憎んだっちゅうことやろ?」
「ま、そっすね」
「それは、ええんやけど…なんでお前がそんなん話したんかわからんわ」

はっきり告げれば、うっと図星を突かれたような表現で顔を歪める光。こいつが、あんな饒舌に話すなんてありえへん。絶対、なんか裏があるんやろ。

「…はあ、なんであんたはこういう時だけ鋭いんやろな」
「光のことやからやろなあ」

光に手を伸ばして、頭を撫で頬へと滑らせば、手にすりすりとしてくる。そして、目を閉じて口を開けた。

「…謙也さんもそうなるんかな、って」
「はあ?」
「俺のこと今は好きやけど、俺が年取ってしもうたら…好きやなくなって捨てられるんかと思ったんっす、わ」

ぽつりぽつり、言葉を出しながら閉じた目からも涙を流す光に胸がとても痛くなった。そないなことあるかいな、お前を好きにならんくなるとか、ありえん。

「アホやな、光。オレのこと嘗めすぎやで!オレはずっとお前のこと好きや!いくらお前に放せっていわれたって放したらんっちゅー話や!」

オレのとびっきりの笑顔を向ければ、光がぱちりと目を開いて、おおきに、と照れた様子で小さく呟いた。

(愛しとるで、光)
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