He kissed me.

前髪長ぇな、目ん中入ったりしたら痛てぇだろうな、と本当にどうでもいいことを昼飯を食ってから思っていた。

「ブンちゃん、どうしたんじゃ」

いきなり声がしたから、間抜けにもびっくりした。そして声の発信源を見るために目線を髪から目へと下に落とせば、オレの右手首をがしっと掴んだ仁王と目が合った。

「なんでお前、オレの手首掴んでんだよ」
「お前さんが伸ばしてきたんじゃろうが」

はぁと溜め息をついた。それが妙に口元にあるホクロを際立たせていて色気がやばかった。こいつ、ほんといやだ。

「んなことあるかよい」
「ほぅ、是が非でも認めんか」

オレが否定すれば、そう言って意地悪そうに口元をつり上げる。まあ、んなことない、とは言ったが実際は真実だ。長い仁王の前髪に手が伸びたのは。

「それよりよ、仁王」
「…なんじゃ」
「前髪うっとしいから、これで留めろい」

話題を変えて、素早く女子から借りてたヘアクリップで仁王の長い前髪を留めた。すると、髪で隠されていたおでこがオレとこんにちは。やられた仁王はというと、特に気にした様子もなくしれっとした表情。

「スースーするのう」
「そんな変わんのかよ」
「…ブンちゃんもやったらわかるきに」

何か言ったと思えば、『スースーする』ってなんだ。スカートとか穿いてるわけもねぇのに。オレが反論じゃないほどの答えを返せば、オレもやったらわかると言われ、仁王が手をオレのおでこに向かって伸ばしたので大人しくしていた。ちょっと、触られるのに期待してしまっているのは、仕方ないと思う。

ちゅ

仁王の指がオレの前髪を掴み取った後に、軽いリップ音が響いた。それと同時に、おでこに唇の柔らかさと温かさを感じさせられ、途端に体中の体温が一気に上昇して、自分を赤く染め上げているのが嫌にでもわかった。

「に、におっ!!」
「ブンちゃんのがやっぱり似合うの、かわええ」
「話逸らすんじゃねぇよい!!」

戸惑うオレに、にやにや笑みを浮かべるペテン師。腹が立ったけど、それどころじゃないため殴ることは辞めてやった。

(一枚上手な仁王にドキドキした、くそ)

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