フレンチトーストの薫り

僕が目を覚ますと同時にある匂いがふわり。それは、僕ではないあの人が先に起きて作ったフレンチトーストの匂いだ。卵を溶きまぜた牛乳に食パンを浸してバター焼きにしたフレンチトースト。朝はたいていこの匂いが家の中に漂う、決して悪い匂いではないため嫌ではないむしろ良い。起きてもなおボッーとしていれば、腰にエプロンを着けたあの人が寝室に入ってきてベットに近づいてくる。それから、

「Good morning」

と流暢な本場仕込みの英語の挨拶と共に瞼の上に軽くキスが落とされる。

「氷室さ、ん」
「まだ寝惚けてるかな」

寝惚け眼(まなこ)で氷室さんの目を見て名前を呼べば、にこりとフェロモンたっぷりの笑みを浮かべ髪を優しく撫で上げる氷室さん。毎朝の恒例行事となったこの行為は、酷く僕のお気に入りだった。

「さ、朝食を食べようか征十郎」

氷室さんの言葉に小さく頷けば、氷室さんに手を引かれて寝室を後にする。さて、大好きなフレンチトーストを食べよう。

(いただきます、)

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