だまされた後輩くん

目の前にいる謙也さんの頭が…髪がヒヨコカラーから、染める前の黒色に変わっとった。すなわち、俺と一緒の色や。

「ざいぜーん、どうしたん?」
「どうしたんのは、俺やなくてあんたやろ」

謙也さんの髪を見てから固まっていた俺に声を掛けてくるが、ほんまにあんたがどないしたんや。

「…なんもないで?」
「…チャームポイントの頭どしたんっすか」

あくまでもしらを切る謙也さんに、少しばかりいらっとしながら問う。すると、あーっと言いながら手をポンッと叩く。

「髪か!なあ、似合っとる?」
「地味っすわ」

そう言えば、誰が地味やねん!などと返してくる。けど、そんなことはどうでもええ。なんでいきなり染めたかが俺には気になった。…別に、謙也さんの自由やしええんやけど。

「なんで染めたんっすか」
「染めてないで」

はあ?と謙也さんの言葉に思わず低い声が出た。うお、とか謙也さんの声が聞こえるけど知らん。染めとるっちゅうのに、染めてないとか意味わからん。

「今のめっちゃ低かったな声」
「茶化すな」
「はい…えっと、な、これカツラやねん」

ほら、と言って謙也さんが黒色のカツラをずらせばいつもの金髪が現れた。…意味わからん。なんでこの人ヅラかぶっとんねん。

「いや、あの騙したのは悪かったっちゅうか、あの…すまん」

俺が何も言わずに眉間に皴を寄せていたことに、焦ったのか急いで謝ってくる。その必死さがキュンと自分でもわからんけど、胸に来たから許してやろう。息を少し吐いてから「ま、いいっすわ」と告げればぱあっとそれはそれは犬みたいな表情でこちらを見つめてくる。別に、騙されたのも悪くなかったし、謙也さんの黒髪も悪くなかった。その証拠に見た瞬間、胸が高まった。ま、謙也さんにはいうてやらんけどな。絶対に調子にのるし。せや、騙したお返しに次は俺が金髪に染めてみるのはどうやろ。勿論、ヅラにきまっとるけど。

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