置いていかないで、と呟く

最近は目を腫らしてばかりおる。それは、毎晩泣くのが原因だと自分自身でわかっとった。それは、千歳さんが高校は九州に帰る予定だと白石部長から聞いたからだ。まあ、最初からそうなるとは思っとったから然程驚きはしなかったが、…悲しかった。年が離れとるのも問題やと思うてんのに、遠距離とか尚更問題や。

「千歳さん」

独り佇む部室で、静かに小さく呟いた。名前を呼んだってどうにかなるわけない…ただ、自分を落ち着けようとしとるだけ。

「なんね?」
「へ…千歳さ、ん」

独りやと思うとったら、自分の後ろから愛しいあの人の声。振り返って見れば、片方だけのピアスを輝かせてこちらをふんわり笑いながら見とった。

「泣きそうな顔しとるたい、光くん」
「…ち、とせさん」

側に寄ってきて、俺の頬を包む温かい手に涙腺が緩む。そして、見つめてくる瞳に涙が止まる筈がなかった。ぽたり、ぽたりと部室の床に涙が落ちる。すると、ぎゅうっと千歳さんの腕の中に閉じ込められる。それが、嬉しかったけど悲しくて頭がこんがらがる。

「…置いて、いかんといてっ…お願いやか、ら」

途切れ途切れでも必死に千歳さんの服を握り、言った。けれど、俺の頭を撫でる千歳さんは何も言わなかった。きっと、無理なことやから言葉を返せれんかったんや。せやけど、嘘でもええから今の俺には『側におる』などの言葉が欲しかった。

(幼い俺にはどうもすることができない、現実)
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