弟子に為て遣られる 雪村は、僕に名前を呼ばれると擽ったそうに笑う。それがとても愛しくて仕方がない。そして、僕は今日何回目かになる『雪村』と口にする。 「雪村」 「なんですか、吹雪先輩」 わざとではなく、無意識にきょとんと首を傾げる姿がそれは可愛らしい。ただそれだけなのに、やられてしまう僕は駄目だね。自己反省をしながら、雪村と呼ぶ。 「雪村」 「…ふぶ、き先輩?」 「雪村」 「だ、だからなんですか!?」 三回目で雪村がキレた。雪村は短気だから仕方がないのだろうか、いや僕のせいかな?と考えてクスクス笑った。これだけで幸せに感じてしまう僕はお手軽だ。 「雪村は名前呼ばれるの好きなんだね」 「え、なんでですか?」 「僕が呼ぶと嬉しそうにするからだよ」 雪村にそのことを告げれば、雪村は途端に顔を伏せて小さくボソボソと呟いた。え?と声を出して再度言うようにすれば、雪村は顔を勢いよく上げて顔を真っ赤にしながら「ふ、吹雪先輩だからに決まってんだろ!」と叫んだ。それが余りにも唐突で予想していなかったため僕は暫く固まった。 (反則だよ、雪村) |