彼の苦手なもの

笑顔とはいったいどういうものなのか?辞書では、『にこにこと笑った顔。笑みを含んだ顔。』という意味でした。けれどボクは彼の赤司くんの笑顔を見たことがない。彼は、いつもなにかを考えている顔や寂しい顔を浮かべてばかりいると、ボク自身勝手に解釈しています。

「どうしたんだい、テツヤ」

赤司くんの笑顔について考えていると、本人の声がした。前を見てみると、本を片手に立っている赤司くんがいた。

「赤司くん」
「なにか考え事かい?」

そう言いながら、ボクの横に腰を下ろす赤司くん。ボクはというと、彼に君の笑顔について考えてましたなどというわけにもいかないためどうしたものかと思っている真っ最中だ。なんでもないと言っても、彼の性格上納得しない。

「えっと、」
「言いにくいことか?困ったな、テツヤの力になれると思ったが」

眉を少し下げて、寂しそうな表情を浮かべる赤司くん。その表情をボクは好んでいない、…嫌いだ。だから、その表情を見たくないために渋々口を開け話すことにした。

「笑顔についてです、赤司くんの…」

そう言うと、先ほどまでの寂しそうな表情から一変、驚きの表情に変わる。予想もしていなかった答にだいぶびっくりしたんだと思われますね。

「僕の笑顔?よくわからないが」
「赤司くんは笑いませんよね、ボク…ボク達といても楽しくありませんか?」

ボクが言うと同時に赤司くんは、ぎゅうっと抱きついてきた。それから、テツヤと呟いた。

「そんな風に見えていたのか、悪かったね…テツヤ、みんなといて楽しくないわけじゃないさ。あれかな?うまく笑えないっていうことだ、僕は笑顔が苦手でね。いい笑顔を作るというか浮かべることができない…、」

一度言葉を止めてから再び、でもと言葉を繋げる赤司くん。

「でも、これからは笑うことにするよ」

なにか義務みたいな感じな言い方になってしまったが、そこは気にしないでくれ、ふふとボクには見えないが早速笑ってくれた赤司くんにボクも笑顔が浮かんだ。

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