俺だけが過去を見る

ピーッと鳴るホイッスルが体育館に響き渡る。それは、今の暑い状況をかなり苛々させる要因になりつつある。僕自身もそうだが、練習している奴らは全員そうだろう。考えていると突然目眩がした、誰も見ていないのが幸いだ。…熱中症でも起こしてしまっただろうか、と考えながらズルズルと座りタオルを頭に乗せ水分を取り、目をつむった。その瞬間に、なぜか帝光時代の練習風景が頭の中で鮮明に映し出された。大輝が涼太を弄り、それに溜め息をつきながら見ている真太郎。で、涼太がテツヤに助けを求めるがスルーされ、テツヤは桃井に抱き着かれる。敦は、僕の後ろにいてお菓子を食べている。それが、いつもの風景だった…なのに、変わるものなんだな…。当たり前なのかもしれないが。そもそも僕が洛山に入ったのは洛山のユニホームが帝光のユニホームに似ていたからだ。ただ、それだけだった…それ以外はまったく何も考えずに入った。帝光時代に僕は囚われている。そう、僕だけがあの時から変わっていない。ある意味でね…。

少し自照的になっていれば、赤司や征ちゃんなどと僕を呼ぶ声が聞こえた。閉じていた目を開き、ボヤッとするのを気にすることなく目を凝らすと仲間の足が見えた。ああ、練習を再開しなくてはいけないな、と思い体を動かし立った。すると、

「あら、征ちゃん泣いたの?」

と玲央にそう言われたが、いや汗だろ…さ、練習を再開しようと言って涙を全否定した。自分でも気付かないうちに涙を流していたのだろうか。まったく、弱い自分なんかありえない。なぜなら、僕は開闢の帝王の洛山高校男子バスケ部の主将(キャプテン)なんだからね。と言い聞かせるように僕は心で呟きコートに向かった。

(勝つことだけが、全てだ)

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