風が君を攫う

放課後自分の家の窓から出入りする風が、紫色の髪を何度も揺らす。そんな姿に、思わず息を飲む。本当にこの人って絵になるな、と考えながら。

「神童」
「は、はい」
「俺のこと見ずに課題やれよ」

突然南沢さんに言われたことに図星だったため、ピシッと体が固まる。それに南沢さんが溜め息を吐く。

「気づいてたんですか」
「あんな熱い視線送られたらな」
「う、」

気づいていないと思ってたいたのに恥ずかしい。あ、また風が南沢さんの髪をなびかせる。それにまた目を奪われる。

「…神童、お前な」
「す、すみません!」
「野郎の髪なんか見て何がいいんだか」
「南沢さんのは綺麗ですから!」

勢い余い、つい恥ずかしい台詞を口に出してしまった。南沢さんもポカンと唖然してる、ああ馬鹿なことをしてしまった。数秒前の自分を恨みたい。

「そ、そうかよ…なら」

一人葛藤していたら、我に返った南沢さんが顔を真っ赤にして声を出した。最初の言葉から間がいくらか開いてから、いつものクールな南沢さんに戻った。そして、オレはというと南沢さんの台詞を復唱する。

「なら?」
「髪触ってみる?神童」
「へ、」

先程のお返しと言わんばかりに、妖艶な笑みを浮かべこちらを見てくる南沢さん。自分の顔がこれでもかというぐらい赤く染まるのが分かる。ああ、この人に勝てる気がしない。今も、ずっとこれからも。

「い、いんですか」
「ああ」

どうぞ?と南沢さんが瞳を閉じる。それを合図に、手を髪の毛に伸ばす。そして優しく撫でながら今度は気づかれないように髪の毛に軽くキスを落とした。ああ、この人が好きすぎるとなどと心の中で思いながら。

南沢さんの紫色の髪は、とてもサラサラだった。


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