もうひとりじゃない

※11話の内容を少し含んでいます。捏造しまくり。上司の回想モノローグ的な。


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私がヤマーダと出会ったのは彼が17歳の頃、私がDUCKのトップに就任して間もない時期だった。
当時の彼は今から想像もつかないほどにスレていた。
明らかに高校生なのに昼間から外をぶらつき、ターバンは薄汚れてボロボロで、髪はボサボサと伸ばされたものが後ろで一つに結ばれ、目つきは人を信用していないそれだった。

その目を私は気に入った。
挑発的に彼をDUCKにスカウトした。
「人生を、お前自身を変えてみないか?」


17歳でDUCK入隊を果たし、最年少記録者となった彼は、その後の活躍も目覚ましく、すぐに幹部クラスまで昇進した。
彼にはいちいち挑発的な言葉で仕事を与えてきた。
彼の向上心を刺激する最適な方法だと読めたからだ。

彼は優秀すぎるほどに優秀だった。
勉学や技術的なことは勿論、体術の習得もあっという間だった。
あとに聞いた話で、高校までの学校ではその優秀さを疎まれ、周囲から浮いてしまったらしい。
しかし、DUCKではそのような状況になることはなかった。
DUCKには奇抜で、世間一般から見れば近寄り難い奴も多い。
その奇抜さがここでは一人の人間の個性と判断され、互いに認められるのである。
この環境が、徐々にヤマーダの心を解きほぐしていった。


彼はたくさんの部下を持つようになり、その部下みんなから慕われるようになっていたが、満たされないものがあった。

友達だ。

上司の私に従って任務を正確にこなしてきても、部下に慕われても、所詮仕事仲間であり、上司であり、部下だ。
友達にはなれない。

アヒルのタピオカを彼に与えたのもこの時期だ。
友達のいない彼への、せめてもの対応だった。
何故かDUCKで唯一、彼はタピオカと会話ができた。


数年後のことだ。
日本の江ノ島というところに宇宙人が来たとの情報が入った。
調べてみたら、海がとても綺麗で、四季によって様々な顔を見せる、のどかな場所だった。
同時に、何かが変わりそうな予感を感じさせる場所だった。
私は、ヤマーダをこの地へ送ることを決意した。
ヤマーダの好きな釣りの技術も、ここなら十分に活かすことができる。

送るときには、例のごとく挑発的に「左遷」という言葉を使った。
本来なら、優秀な彼に左遷などあり得るわけがない。
彼も当初は不満と疑問でいっぱいという顔をしていた。
あの顔は忘れもしない。


そして今。
彼は大切な友達を得ることができた。
私はヤマーダの行動を監視しながら、江ノ島に感謝した。
今まで彼が得られなかったものをこの地は与えてくれたのだ。
もしかしたら、ヤマーダが心の底から笑顔を見せたのは初めてだったかもしれない。


しかし、事が予想以上に大きくなり、ヤマーダに命の危険が生じた。
本当は止めたかったが、彼の意志は固かった。
一方で、彼がここまで大きく成長したことに嬉しくもあった。
こんなに自分の強い意志を見せたことが今まであっただろうか。


「失礼します」
船のふちから海へ突き落とされる際、彼を取り押さえることができなかったわけではない。
それをしなかったのは、彼に託したいと思ったからに他ならない。
友達を得られなかった、ひとりぼっちだった彼がこの江ノ島で得た大切な仲間と地球を救い出す。
そんな小さな奇跡のような光景を見てみたくなったのだ。


「生きて帰れよ」


突き落とされる瞬間に発した私の言葉が彼に届いていたのかは定かではない。
荒波へと消え入ってしまったかもしれない。
それでも構わないと思った。


私にできることは、モニターに移るヤマーダの無事を祈ることだけだった。


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120623
アキラが優秀という件は5話で壁に貼られていたグラフから。上司は本当にアキラのことが大切なんだなってその気持ちが伝わってきて、なんだかとても温かい気分になります。



 


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