さくらが見つかる直前くらいのお話
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最低だ。
ユキに当たっちまった。
さくらがいなくなったのは、間違いなく俺のせいだ。
みんなで楽しく過ごしていた中、親父に怒鳴って雰囲気をぶち壊し、それに腹を立てたさくらを殴った。
あの場で怒鳴る必要なんてなかった。
親父は俺の夢を否定するどころか、応援してくれていたのだから。
さくらが、俺がもっと家族に歩み寄ることができるようにしたい気持ちも、今考えれば十分理解できる。
そんなさくらをユキが庇うのも当たり前だった。
なのに、「お前に何がわかる」だなんて、言ってはいけなかったんだ。
じゃあ俺はユキの何がわかるんだ?
親や兄弟がいない寂しさが俺にはわかるのか?
……それと同じことだったんだよな。
ガキだ、俺。
ユキの胸倉を掴んだ感覚も、ユキに腕を掴まれた感覚もまだちゃんと残っている。
江ノ島中を走りながら考える。
思えば、ユキと衝突したのって初めてだ。
出会ってすぐは喋ることすら出来ないようなやつだったのに。
俺も、あいつと会うまでは塞ぎこんでばかりだった。
何もかもどうでもよくなってた。
それが、お互いに会って変わった。
衝突する日が来るなんてな。
ユキが初めてキャスティングを成功させたとき感じた、痺れるような、胸の奥から熱いものが湧き上がってくるような感覚が、ふと蘇った。
次会ったら、ちゃんと謝ろう。
またあいつと釣りがしたい。
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120622
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