友達なんて要らないと思うようになってから何年経っただろう。
この江ノ島に来てすぐの時、よく思っていたことだった。
あいつらと、葵と、毎日釣りをしたり話したりしているうちにそう思っていたことすら忘れていられるようになっていた。
でも、出会いがあれば別れがくるのは当然で。
「え…今なんて?」
「故郷に帰ることになったんだ。今回の一件で本部に戻ることになって」
「いつ帰るの?」
「…明日の朝」
「………」
少しだけ沈黙が流れたあと、愛しい人は明らかに涙をこらえた顔で笑って言った。
「よ、良かったじゃん!今まで左遷されてたんでしょ?これでもっと堂々とできるよね!カレーもスプーン使うの大変だったでしょ?」
「…葵」
「日本ってインドと違って梅雨とか蒸し暑いから外人さんにはキツいしさー!やっぱり故郷が一番だよねうんうん!」
「葵!」
「!」
堪えられなくて、半ば強引に彼女を引き寄せ抱きしめた。
これ以上、俺を笑顔で見送ろうとする葵を見ていたら、こちらが泣きそうだ。
「…もう、いい」
「っ、…アキラの…ばか」
「うん」
俺の服に、涙が染み込んでいく。
「私、まだアキラのしらすカレー食べ足りないよ」
「うん」
「タピオカとももっと遊びたい」
「うん」
「………離れたく、ないよ…」
「俺もだ」
俺の腕の中で泣く葵の頭をそっと撫で、サラサラと流れる髪を一束すくって口づける。
同時に、自分のターバンをほどいて、その端で彼女の涙を拭いてやった。
「これ」
「……ターバンがどうしたの」
「葵にあげるよ。それを俺の代わりだと思って。俺のこと忘れたりするなよ?」
「………要らない」
「なっ!せっかく俺が親切に…!ちゃんと毎日洗ってあるぞ!?」
慌てる俺をからかうように、彼女は言った。
「こんなのなくたって、あんたのことなんか一生、絶対、忘れてやらないから」
やっと、心から笑った。
花のような笑顔に鼓動が少し早くなったのを感じた。
「いいから、もらえるものはもらっとけよ」
「ふふっ、じゃあもらってあげる」
別れは、相手が自分の大切な人になればなるほど辛くなる。
だけどその辛さには、もう怯えたりしない。
そう強く思いながら、彼女の唇に最後の口付けを落とした。
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120621
アキラが友達なんか要らないと思うようになったのは辛い別れがあったからって設定。ターバンほしい。
最終回でアキラはインドに帰るんでしょうか。寂しいなあ…