「アッキー」
「だからその呼び方はもう止めろって何度も…」

JF1の寝顔を映し出すモニターを見ながら、隣に座る上司の顔を覗く。
程良い温かさを帯びた毛布は私たちがくるまっている時間の長さを感じさせ、その温もりから生じる睡魔に負けないように彼に話しかけた。

彼は私が所属する宇宙人調査機関DUCK極東支部のボスであり、私の兄のような存在だ。
かなりの付き合いになるが、面倒見の良い彼はいつも私の世話を焼いてくれる。
この毛布も彼が持ってきてくれたものだし、加えて私の見張りに付き添ってくれている。

「アッキーはさ、任務が終わったら故郷に帰りたい?」
「何を言い出すんだ、急に」
「いや、ちょっと聞いてみたくなって」

私は自らの上司が標的である宇宙人やその周りの人間となれ合っているのを知っていた。
しかしながら、本部から左遷されてしまった彼には直接言えないことではあるが、この和かな江ノ島で新しくできた友達と共に過ごす彼を見るのが私は好きだった。
DUCKでは見せないような優しい顔をしていた。
そんな彼をもう少し見ていたいのだ。

「………お前はどうなんだ、葵」

少しの沈黙があってから返される答え。

「私?私は………もうちょっとここにいたいかな。すぐ帰っちゃうのはもったいないくらい綺麗な町だよね、江ノ島」

私がそう言うと、彼はモニターに視線を戻し、普段友達といるときに見せるようなとても優しい顔で「ああ」とだけ呟いた。

心地よい沈黙が続く。
身を寄せ合っているうちに安心感から少しうとうとしていると、タピオカの「クワッ」という小さな欠伸が響いた。


---------------

120629

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -