「また名前忘れたの?」
そんなわけない。
今まで何度その名前を聞いてきたか。
「(仁王も報われねえよなー。いや、これはこれで報われてんのか?)」
仁王が言うには、二人は既に入学式の日に出会っていて、ずっと焦がれてきたのだと。
俺は仁王と仲間だし、暁が良い奴ってのも二年のとき同じクラスになってから分かってたから、反対する理由もなく温かく見守ってきた。
(暁はなぜか最初、この視線にびびってたけど)
だが、暁のほうは仁王のことをすっかり忘れているみたいで、ひたすら話しかけてはいるがそのことについては一切触れない。
「(やべ、泣いてんじゃねえかよぃ!)」
仁王が自分を忘れられていじけているのは百も承知だが、あまりに態度が悪すぎたようで、暁の目に涙が溜まりだす。
「(どうすんだ、仁王)」
ちょろ毛発言に吹きつつ、仁王の出方を窺う。いやあいつちょろ毛って。本当に好きなわけ?って思ったけど言わない。俺って良い奴。
そんなことを意味もなく考えていたら無関心でも無いと仁王が言った。
おおっ!これはまさか‥
「‥‥好きじゃ‥、暁」
きたーっ!!!
この二年間、どんだけ仁王の暁への思いを聞き流してきたか‥
ようやく両思いかと思いきや、忘れられていたことにベッコベコにヘコミまくって拗ねてしまった面倒極まりないあの仁王が、ついに!
クラスメートなんて気にせずに抱きつく暁に顔を真っ赤にする仁王。
仁王がヘタレなんて知らないクラスメート達はしん、とした空気から一変ざわざわと騒がしくなってしまった。
二年前から暁のことを想っていたことは、俺にとってももう耳たこになる程承知の上だったが、突然の告白に周りは声を揃えて驚いていた。
そりゃそうだよな、明らかに仁王の態度冷たかったし。
結果的には暁も入学式のことを思い出したようだし、両思いにもなれてめでたしめでたしってやつ。
(本っ当良かったな)
(これから毎日うぜーんだろうな、と若干ウンザリしながらもやはり嬉しい思いが抑えきれずニヤニヤしてしまったのはクラスの奴らしか知らない。)
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