(一方的に)ケンカしました
「小鳥先輩?」
「…ん、」
今日もいつものように昼食を持って屋上へ行く。
ただ違ったのは小鳥先輩が寝ているということだけだ。
「(そういえば二年生は実力テストが有るんだったか)」
土曜日に二年生だけに行われる実力テストは進級に関わってくるようで、いくら成績が悪くなくとも授業をサボってばかりの先輩には中々重要なようだ。
きっと勉強に疲れて眠ってしまったんだろう。
起こすのも悪いから小鳥先輩の隣に腰をおろして弁当を広げる。
『海藤くんは味噌汁と相性が良さそうだねぇ』
『わかめじゃないです…!』
『そんなに怒らないでよわ海藤くん』
『今わかめって言おうとしましたよね』
『そんなに泣いてたら昆布になっちゃうぞー』
『昆布じゃないですわかめです』
『わかめなんだーへぇ』
『!』
「……」
思い起こせば小鳥先輩には本当にからかわれてばかりだ。
お弁当をつまみながら気持ちよさそうに眠っている小鳥先輩を見る。
亜麻色の髪は自分の方に靡いていて綺麗なそれに思わず手を伸ばした。
「(サラサラだ…)」
これは確かに僕の髪をバカにしたくなるかもしれないと少しだけ思う。
サラサラと染めている割には傷みの無い髪を梳いているとふと先輩の耳が目に入った。
ピアスのついている耳は違和感が無くて、似合っているのか自分が見慣れたせいなのかよく分からないがまあ多分両方だろう。
「ん、」
「!」
耳に触れた指がくすぐったかったのだろうか先輩は眉を顰めて身じろぎをした。
だが起きてはいないようで再び寝息を立て始めた先輩に安堵する。
「……っ」
先輩の顔は先ほどまで反対に向けていたのに身じろぎをしたときにこちらを向いてしまった。
普段はパッチリと開かれている目は伏せられ長い睫毛が目の下に影を落としている。
少し開かれた唇にまだ軽く皺が寄っている眉のせいで妙に色気が出ていて落ち着かない(制服が着崩されているのも要因の一つだと思う)。
「…小鳥先輩、」
いつもとは違う先輩に何だか混乱して、起こそうと肩に触れると小さく名前を呼ばれた。
別にやましいことがある訳ではないのに思いきり肩が跳ねる。
「先輩、起きてたんですか?」
「、…海藤、くん」
「はい?」
「……」
寝言、のようだ。
何で僕の名前を…という疑問半分、嬉しさ半分。
すっかりお弁当よりも先輩に意識を移してしまった僕は先輩の寝顔を眺めることにした。
親友でありながらも新しい発見が多く、こんなところにホクロがあるのかとか、睫毛は長いだけでなく髪とは違い真っ黒なんだとか、頬に小さな切り傷が、とか。
ん?切り傷?
んんん?と先輩に顔を近づける。
「先輩、何でケガして…」
「…なあに、海藤くん。そんな近付いて寝込みでも襲う気だった…?」
「っ!!ちがっ先輩、起きてたんですか!」
「うんや、起きたなう」
起こしてくれればよかったのにぃ、と先輩は笑う。
「先輩、どうして頬に傷が…」
「あー、これ?ケンカした」
「ケンカって…。傷跡が残ったらどうするんですか!」
どうってことないよと流す先輩に苛立ちを感じる。
なのに先輩は「貰ってくれる人がいなくなったら困るねぇ」なんてヘラヘラと笑うから、その苛立ちは段々怒りへ変わってきた。
「そういう問題じゃ…!」
「ん?僕が貰うから問題ないですよって?」
「〜〜〜っ!先輩のバカ!もう知りません」
こんな、人の気も知らないでからかって!
いつもはからかわれても我慢する涙がぶわっと溢れてきたのを見られたくなくて、何か言いたげだった先輩を置いて走って屋上を後にした。
「……(どうしよう)」
先輩と、親友とケンカしてしまった。
バカって言って乱暴に扉を閉めて…嫌われただろうか。
「………うぅ、っ」
しかもお弁当箱を屋上に忘れた。
でも怖くて取りにいけないから、とりあえず一旦全部忘れようと思う。
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