邪魔されました




「はー長閑だねぇ」

小鳥先輩と昼食を取ることが普通になった。
友達、というものになってから変わったことといえばそれくらいだろうか。

「眠たいなぁ」

「今日も午後はサボるつもりですか」

いや、少しだけ、前よりも先輩のことを知った。
低血圧で遅刻することが多くて、昼食を食べた後は眠たくてサボる。
成績は中の上(テスト前は勉強しているらしい)、ケンカで負けたことがない(話を聞くとやっぱりデンジャラスだった)など。
特に重要なことだとも思えないが、こんな取り留めもないことを教える間柄を友人というのだろうか。
それならば僕は小鳥先輩と友人になれてよかった。
…よくからかわれるけど。

「その髪ってアイロンしたら面白そう」

「面白くありません!」

ジョーダン。と笑う小鳥先輩はやっぱり綺麗で眩しい。
そんな穏やかな昼下がりを、僕の苦手な先輩であるあの人が邪魔をした。

「あれー奏」

「あら、平介と愉快な仲間たち」

「誰が愉快な仲間だよ」

「後輩くんじゃん。奏と友達だったんだ」

「そーなの。あんたらも知り合いだったんだねぇ」

ニコニコといつもと寸分違わぬ笑顔の小鳥先輩にもやもやを感じる。

「それにしては海藤くんの顔が凄まじいけど」

「平介がこいつに嫌われてんだよ」

「あー」

「あーってなに!」

「海藤くん平介みたいなの嫌いそうだもんね」

もやもや

「みたいなのって!」

「あはは!後輩くん、よかったね。奏と友達になれれば百人力」

「佐藤。私は海藤くんと共に戦うわけじゃないのよ」

「お前ら中学一緒なんだっけ。きょうけんと…虎?」

もやもや

「白虎ね。強そうでしょ海藤くんや」

「…そうですね」

「そういや奏、明日小テストあるらしいよ」

「嘘っもしや数学?」

「奏成績良いから大丈夫でしょ!」

「まー奏ならな」


プツン、
もう我慢の限界だ。


「先輩たちっ!」


そう叫ぶと三人だけでなく小鳥先輩の肩まで跳ね上がったがそんなこと気にしていられない。

「小鳥先輩は今、僕の友人なんです!先輩たちは教室でも話せるからいいじゃないですか…!僕は小鳥先輩と、昼食でしか会えないんです!ですから…その間くらい、譲って、ください…よぅ、」

我慢できずに涙がボロボロと頬を伝う感覚が嫌で、セーターの袖で乱暴に拭いた。
歪む視界の中では先輩らも、小鳥先輩までもが揺らめいて凄く不安になる。

「…奏、お前何したらこんなに後輩が懐くわけ」

「友達になったら」

「ごめんね後輩くん、奏取っちゃって。返すね」

「いや物じゃないからね」

「じゃあイチゴ牛乳買いに退散しますか」

律儀に小鳥先輩は三人ともに手を振ってから、僕に向き直った。

「海藤くん」

「……はい、」

「君、可愛いねぇ」

「……」

やっぱり僕にこの人は理解できそうにない。
ゴシゴシと未だ溢れ続ける涙を拭う。
小鳥先輩とは、本当の、深い間柄の友人にはなれないのだろうか。

「あらら、そんな擦ったら目が腫れるよ」

「っ!」

不意に目尻に触れた小鳥先輩の指は温かくて、何だか自分がとても子供のように思えてきて恥ずかしい。
そんな僕を見て先輩は困ったように笑う。

「私は君と、昼休みだけの友達なんて思ってないよ」

「……小鳥先輩、」

「今度の休み、暇だったら遊ばない?」

いつもの優しい表情で、答えはYESかはいねと笑う。
その笑顔を見て僕は、絶対に今より深い友人になるんだと決意したのだった。


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