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日差しが少し暖かくなったように思う。

16時半放課後現在、委員会の当番で図書室のカウンターなうです。
最近視力が落ちてきたようで眼鏡を常備するようになった。
授業中と本を読むときしかかけないという決まりが自分の中にあるのだが、貸し出した本と返却された本の名前を照らし合わせている今は別だ。うん。
一通り作業は終わり窓の外を見て、今日は午前からいい天気だったから夜は星が綺麗なんだろうなあと考えていると、小さな頃に読んだ、うっすらとしか記憶にない懐かしい本が読みたくなった。
粗方片付いた書類を一瞥してから図書室の中から探し出し(真面目に委員の仕事をこなしているから場所は大体覚えてる)表紙を開く。
数年前と違わぬ懐かしい物語だが、本とは何度読んだことがあっても年を取るにつれて受け取り方が変わる、何とも不思議で飽きないものだ。

「すいませーん、傘泣さん。これ借りていい?」

「あ、はい。ごめんなさ…とうくん?」

「あはは、ごめんなさとうってなに」

本に熱中し過ぎて人が目の前に立っていることに気が付かなかった。…吃驚した。
失礼ながらどう頑張っても図書室とイコールでは結ばれない佐藤くんが本を借りたいというのは何とも異様な光景だ。
気付けばガン見をしてしまっていたようで佐藤くんは居心地が悪そうに頭を掻いた。
あれ、小川くんにもこんな顔させた気がする。

「学校…てか先生からの個人的な課題でさ」

「課題?」

「お前はもっと頭を使うべきだから、本を読んで感想文をだせって」

ひどいと思わない?
と続ける佐藤くんに合致がいった。
国語の授業中に爆睡をかまして怒られてたわそういえば。
笑いを堪えながら本をまともに借りた経験のないらしい彼に教えるべく、本の裏表紙にある貸出カードを取り出した。

「これに、日付と名前をですね…」

「あ、傘泣さんの名前」

ココ、と佐藤君が指をさした先には貸出カード。
そしてそのカードの記名欄には"傘泣"と書いている。

「わー、傘泣さんの読んだ本とかおれ読めるかな…夏目漱石って有名なひとだから簡単に読めると思ったのに」

「…これはフィクションじゃないですから、夏目さん自身に興味が無ければ読み辛いかと…と、いいますか説明聞いてましたか?」

「…もう一回お願いします」

しゅんと犬の耳を垂らしたような佐藤君に溜め息を吐きもう一度一から説明。今度は真剣に聞いてくれているようだ。

「ふんふん、じゃ、これを一週間以内に返却ボックスか傘泣さんに返したらいいってこと?」

「そうなります」

ありがとう、絶対読み終わってみせるから!なんて意気込む佐藤君に期待しないで待ってると言えばむうぅ、と頬を膨らませてしまった。可愛いなあ…

「絶対、読むからね!」

「分かった分かった。じゃあね」

笑いをこらえながら別れを告げて、時計を見ると閉館の時間になっていた。

「(帰ろう)」

閉じた本の表紙には、コックの服を着た優しそうな男の人と小さな猫が描かれていた。


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