胸の 
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「あれ、傘泣さん。珍しいね」

いつもは遅刻なんてしないでしょ?
そう話しかけてきたのは小川君で彼も遅刻をしたらしい。
マフラーからでている鼻を赤くして、いつも通りヘラヘラと笑いながら上靴に履き替える彼は単位を取れるのだろうか…

「…小川くんって先生に目つけられてるでしょ」

「いやいやそんな大層な者じゃありませんよははは」

褒めてないんだけどなあと思ったのが顔にも出ていたようで小川くんは困ったように笑った。そのふんわりとした雰囲気はやはり私をお喋りにさせるようだ。

「…鈴木がさ」

「な、なななに?」

「どうしたの」

なかなかタイムリーな話題にドキッとすると小川くんは不思議に思ったようだが鈴木がさ、ともう一度続けた。

「昨日、傘泣さん手伝うって言って帰り道の途中で学校に戻っちゃったんだけど」

会えました?
ふわぁ、と欠伸をしながらこちらに目をやる小川くんに頷くと、それはよかったーと教室へ向かって歩き出した。

「(この話しすると絶対墓穴いっぱい掘るから広げないどこう…)」

自然と隣に並ぶ形で階段を登り、次の話題を見つけようと小川くんをガン見すると、彼との身長差がよく分かった。
こんなに猫背なのにどうして背が高いんだろうと人体の不思議を感じたが、その視線のせいか小川くんがとても居心地悪そうに冷や汗を流していたので視線を階段へと落とした。

「……あのぉ、」

「何?」

「えーと、…その」

もごもごと口ごもる小川くんに首を傾げる。
授業中の今、人気の無い階段での視線がそんなにも気分を害すものだったのだろうか。

「どうしたの?」

「んー…あの、さ」

「…うん」

「怒りっぽい人って、どう思う?カルシウムが足りてない感じの」

予想を大きく反れた突然の質問に更に首を傾げる。
こんな質問をしてどうするのだろう。
いやに真剣(多分)な目をした彼に混乱しながら階段を登り終えた。

「…怖い、けど。怒らせる人にも原因があるんじゃ…」

「デスヨネー」

教室まであと数メートルというところで小川くんは立ち止まり、ミッション失敗したよ佐藤とぼやく。
佐藤くんがどうかしたのだろうかと疑問に思ったがそんなに興味が無かったので一人、寒い廊下に別れを告げて教室へと入った。




 
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