それ [ 4/6 ]
結局鈴木くんは暗くて危ないからと家まで送ってくれることになった。
マフラーに埋め直した唇を再び外気に晒す。
「…ありがとう」
「おー気ぃ付けて」
「ふふ、家まであと数メートルだから大丈夫だよ。鈴木くんこそ、気を付けてね」
「おう」
傘泣と書かれたプレートの前でゆっくりと立ち止まる。
もっとたくさん話したいのに話題が見つからなくて、黙って向かい合っている形になってしまった。
少しの沈黙の中、何気なく見上げた空は綺麗な月と星で飾られていて今ここに鈴木くんと居れることが奇跡のような、夢のような気がして不安になった。
そのどうしようもない不安を消したくて、鈴木くんを見ると鈴木くんも星を見ていたようで目にたくさんの光の粒が映っていた。
「…キラキラ、」
「…ん?」
思わず出た言葉。
それに反応した鈴木くんの目に星はもう映っていなかったけれど、どうかしたのかと問い掛けた優しい声はやっぱりキラキラを帯ているように感じた。
「泣いたから、目が少し赤いな」
ふと私の目元に触れた鈴木くんの指に肩をビクつかせると冷たかったか?と慌てて手を引っ込めてしまった。
それがなんだか凄く寂しくて、思わず違うよ、と勢いのまま鈴木くんの手を取ってしまった。
「そ、そうか」
「(やらかしたあああ)」
うおお、と心では唸りながらも温かいその手を離したくない気持ちが強いのかギュ、と握ったままで。
「…大丈夫か?」
「大、丈夫です?」
何で疑問系と笑った彼に既視感を感じたけれどとにかく今の状況をどうにかしたくて咄嗟に口に出たのが
「手、おっきいね」
全っ然話変わってない!
自然と手を離そうとしていたのに、寧ろ問題の渦中を話題に出してしまった。
そうか?と首を傾げる鈴木くんにドキドキしながらも、もういいや、と半ば諦め肩の力を抜いた。
「…だってほら、指の長さがこんなに違うよ」
掴んだままだった手を胸の辺りの高さで広げてくっつける。
心臓が煩くて言葉を紡ぐ唇までドクドクとしているのがバレて無いことを祈るけれど、鈴木くんが小さ、と呟いてそのままキュ、と指を絡ませてきた瞬間頭が真っ白になった。
「!、鈴木く、」
「手、冷たいな」
「(顔は熱いです!)」
真っ赤であろう顔から湯気が出ていないか凄く気になるところだったが、それよりも絡まった指まで段々熱を持ってきてあっと言う間に頭から足の先まで暑くなってしまってそんなことはいつの間にか頭の隅に追いやられていた。
そして、そんな明らかに挙動不審な私に鈴木くんはふ、と笑うと
「かわいい」
と言った。
数秒の間を空けた後、ぶわ、と汗をかいて更に挙動不審になったのは仕方が無いと思う。
え、あ、と数秒間羞恥と嬉しさと戦っていたけれど、その意味を成さない言葉と共に口から出る白い煙を見て少しだけ冷静になった。
「…鈴木くんは」
「は?」
足を一歩後ろに下げて、逃げる準備を万端にしてから深く息を吸う。
「鈴木くんは、かっこよすぎてずるい!」
近所迷惑なんじゃないかと思うほどに大きな声を出して、じゃあ気を付けてねありがとうと早口に言ってから一気に家へと雪崩込んだ。
「い…言ってしまった…」
いやまあ告白(私なりに)はしたんだしそれに比べれば…いやいやでもやっぱり、と自問自答を繰り返しながら一夜を過ごした私は次の日寝坊をしてしまうことになったけれど、これも仕方がないと思う。