恋心 
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「(ああ、もう帰る時間か)」

完全下校の放送が流れ、時計を見ると、針は丁度七時を差していた。
予定ではもう少し早く帰る予定だったが、図書委員の仕事の一つである貸し出しのためのカードを作っていたのである。
季節は冬の終わりも終わり、明日春分の日を迎えるような時期。
4月に入学してくる新入生の為のものをここ一週間をかけて、ようやく作り上げた。…と言いたい所だか恐らくあと二日は掛かるだろう。
ぐ、と背筋を伸ばすと自分でも気づかぬ内に体に負担を掛けてしまっていたのかポキポキと子気味良い音が鳴った。
暫くは見たくもないカードをまとめて机の端に避ける。
ここ一週間よく頑張ったものだと改めて思い、そしてそれも残り二日程度で終わる思うと、肩の荷が随分と降りたように感じた。
鞄を手に取り、窓の戸締まりを確認し、電気を消す。
思っていたよりも真っ暗になった教室から電気のついた廊下に出ると、嫌に肌寒い空気に触れた。
やはり暖房の付いている教室とついていない廊下とじゃ気温差が激しい。
確か室内と外の温度差は五度以内が理想ではなかったか、とそこまで考えてふと自分は暖房を消しただろうかと不安になった。
もちろん不安をそのままにしておけるはずも無く、教室の鍵穴にさしたままの鍵を抜き、もう一度教室に入り電気をつけて暖房のスイッチを見る。良かった。無意識のうちに消していたようだ。
まだ暖かい教室から離れることが名残惜しくて、ボー、と突っ立っていると突然廊下のほうから「よかった、まだ電気ついてる」と声が聞こえてきた。
完全下校時刻を過ぎたこの時間、教室の電気がついているのは恐らくこの教室だけ。
少し緊張しながらそっと教室から廊下に顔を出すと、同じクラスの小川くん、佐藤くん、鈴木くんが居た。

「なんだぁ、傘泣さんかぁ」

そう言った佐藤くんは心底安心している様子であったが私はドギマギしていてそれどころじゃない。
だって、鈴木くんが、こんな近くに。
ピキーンと固まってしまった私を不審に思ったのか佐藤くんは少し眉根を寄せたがすぐに、ああ!と声をあげた。

「誰も居ない校舎で不安だったんでしょ?怖いよね、この時間の学校」

「こんな時間まで何してたんだ?」

佐藤くんの優しい声色とは違って、鈴木くんの言葉はどこか咎めるような響きがあった。
私があ、えっと、としどろもどろになっていると探し物を終えたらしい小川くんがそんな言い方したら傘泣さん怖がるでしょ、と助け舟を出してくれた。

「は?別に怖がらせてなんか…」

「鈴木は何もしなくても怖いから。傘泣さん、アレやってたんでしょ」

いつも通りヘラヘラとした小川くんはそのノリのままで私の机の上にあったカードの束を指さした。

「図書委員の仕事で、残ってて」

彼の雰囲気からか今度は自然と言葉が出てきた。
本当は鈴木くんと話したかったけれどチキンな私には無理だったようで既に視界に入れることすら辛くなってきた。
いつもは私が一方的に見ているだけで、目が合うなんて殆ど無くてただただ、焦がれていただけだから。
今のようにそちらに視線を向ければ必ず目が合うなんていうどうしようもなく胸が苦しくなる状況なんて予想だにしなかったのだ。

「もう一人は」

「…気付いたら、いなかった、です」

心なしか低くなった気のする鈴木くんの声にすっかり萎縮してしまった私は小さな声でしか答えることができなかった。
まあ酷い、と言う小川くんにお前が言うなと鋭いツッコミを入れてから鈴木くんは溜め息を吐いた。

「お前なぁ、そんなん自分が損だろ。明日そいつに言ってやるからこんな時間まで一人で残るのやめろよ」

「え、」

予想外の言葉だった。
いつも冷めた印象を受ける鈴木くんが、私を心配してくれた?
どうしようどうしよう、胸がきゅうってなって顔が熱い。
火照る頬を押さえ、ああありがとう、それじゃあ!と走った私には鈴木くんが呼び止めた声だとか、ニヤニヤする佐藤くんと小川くんだとか、先生が来て三人が怒られたことなんて全く知る由もなかった。

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