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2019/07/15 19:31

生まれつき体の弱かった少女は、満月に祈った。少しでも、ほんの少しでも長く生きられますようにと。まだ、やってみたい事があるの。見てみたい景色があるの――と。
しかし少女は、身を粉にして薬代を稼ぐ父や、看病に追われる母、まだ小さい弟を見ると、ああ、早く死んでしまった方が、家族は楽になるんだわ――そう、思ってしまう。
日々、そんな矛盾した気持ちを抱えていた。

少女が13歳になった満月の夜。
昨日までずっと臥せっていたのが嘘のように、健康になった。溌剌とした瞳、桃色の頬、血の通った唇……少女は自ら起き上がり、歩き、駆け出した。
奇跡が起こった!神が、この乙女をお助けなさったのだ!

しかし、それから間もなく、少女は再びベッドの住人になった。以前より遥かに悪い状態で。
やがて新月の夜。少女は息を引き取った。

家族は悲しみに暮れ、村の慣習に習い、すぐに牧師さまをお呼びし、祈りを捧げ、柩に少女と、白い花を一輪、そして埋葬のため墓地の一角へ向かった。

――朝日が昇り、墓穴と、棺と、家族と、牧師さまと。さいごのお祈りをしていた時。
ドンッ、と音がした。次いで、ここはどこなの、真っ暗で怖いわ、という声。
生き返ったのだ!ついさっき看取ったはずの少女が、生き返った!!

牧師さまは慌てて柩を開け、少女を抱き起こした。
少女は、間違いなく生きていた。顔色は蒼白であったが、呼吸をしている。瞳には光がある。
神が、この乙女に再びの奇跡を与えてくださったのだ!

二度の奇跡をその身に受けた少女は、村中から祝福された。
病と戦う貴女と、ご家族を、神は見ていらっしゃる。祝福があらんことを。

だが「奇跡の乙女」と呼ばれたのはほんの僅かな間であった。
少女は再び死んだ。そして、生き返った。

――奇跡などではない。これは、呪いだ。

少女は、悪しきものに呪われている。それはベッドに臥せるばかりで何もしないからだ。
一方、家族は神に愛されている。少女の為に自らを犠牲にしているからだ。

だから少女は死に、生き返る。


村中から浴びせられたのは、罵声だった。
……ご家族の為にも、お前は村を出ていけ。
……可哀想に、お母さまや小さい弟は、お前のせいで苦労を強いられている。
……お父上の怪我は、お前のせいなんだろう。この疫病神め。

ある朝、少女はひとり、村を出た。
動かない身体を引き摺って。

森の方へ行くのを見たという者がいた。
河へ身を投げるのを見たという者がいた。
悪魔と連れ立って隣村へ向かうのを見たという者がいた。

少女の行方は、誰も知らない。



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